■倫理面の問題

 米ハーバード大学(Harvard University)と米マサチューセッツ工科大学(MIT)が支援する「人工知能の倫理とガバナンスに関するイニシアチブ」責任者のティム・ウォン(Tim Hwang)氏は、IT企業のプラットフォームがニュース配信で大きな役割を果たすことによって、倫理上および法律上の問題が生じる恐れがあるとしながら、「(大手IT企業の)プラットフォームにキュレーターの役割を明らかな形で与えることになる」ことが考えられると指摘する。

 虚偽の情報への懸念が広がる中、IT各社が、ニュースの情報源に対する信頼性を確保するために一層難しい立場に置かれることも考えられる。「ニュースはどこから来ているのか──これは興味深い問題だ」とウォン氏は言う。「まだニュース配信は始まったばかりで、スタンダードというものはあまりない」

 国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団(Reporters Without Borders)」は、配信するニュースの選択において、IT企業独自のアルゴリズムがさらに力を持つようになることに懸念を示す。同団体のエロディ・ビアッレ(Elodie Vialle)氏は、音声アシスタントの台頭によって「不明瞭で、その多くが有料となっているメディアのコンテンツ配信方式が助長される恐れがある」と指摘する。

 他方で、オレゴン大学(University of Oregon)でジャーナリズムを教えるダミアン・ラドクリフ(Damian Radcliffe)教授は、「グーグル、アマゾン、アップルのような大手企業が、既にデジタルニュースの玄関口のようになっている」ことを指摘し、スマートスピーカーのような技術がこの傾向に拍車をかける恐れがあると注意を促す。また、ニュースや情報源をどのように選んでいるかということについて、透明性を高める必要があるとも話した。

 スマートスピーカーの最新ニュースは、人が読み上げるラジオニュースのスタイルを採用している。しかし、ニュースとの向き合い方は、アレクサやグーグルの合成音声の介入によって全く違ったものになる。

 米ハーバード大学バークマン・クライン・センター( Berkman Klein Center)の研究者ジュディス・ドーナス(Judith Donath)氏は、「合成音声の多くが信頼できる仲間のような声に設定されている」が、それはアナウンサーの本来の役割と異なっていると指摘する。同氏は現在、技術、信頼、偽りに関する本を執筆している。

 合成音声に、感情や声のトーンなど、利用者がそれぞれのニュースの文脈ごとに期待する要素を与えることは可能だ。しかし、そうすることで予期せぬ問題も生じてくる。

「悲しい出来事やうれしい出来事を伝えるために、あらかじめプログラムされた音声でニュースを読み上げられた時、果たして我々は落ち着いて聞いていられるのだろうか?」 (c)AFP/ Rob Lever