【10月13日 AFP】政治風刺が珍しいタイで、政治をからかう大胆なグラフティが出現している。首都バンコクのあちこちの壁をキャンバスに、首相の顔をした招き猫や、顔の中心に赤いバツ印が付いた軍事政権幹部などが描かれている。

 2014年の軍事クーデター以降、自由な表現が鳴りを潜めるタイで、新たなストリートアートの口火を切ったのは、スプレー缶を使って権力者たちを風刺するアーティスト「ヘッドエイク・ステンシル(Headache Stencil)」だ。

 タイの「バンクシー(Banksy)」とも呼ばれるヘッドエイク(頭痛の意味)は、その名が示すように、巨大権力に頭痛の種を植え付けたいと願っている。ヘッドエイクは1月、未申告の超高級時計コレクションが発覚し、説明に苦心していた軍事政権ナンバー2のプラウィット・ウォンスワン(Prawit Wongsuwan)副首相兼国防相を風刺する作品を描いたことで有名になった。

 目覚まし時計の中にプラウィット氏の顔が描かれたステンシルアートは、はびこる汚職から国を救えるのは自分たちだけだと言って政権を掌握した軍幹部たちの、懐事情が不透明な点を突いていた。

 しかし統制が厳しく、公の場でジョージ・オーウェル(George Orwell)の小説「一九八四年」を読んでいるだけで反抗的だと見なされ、コネで結ばれたエリート層がすぐに名誉棄損で訴えるタイで、ヘッドエイクのアートは大胆な行動だ。

 バンコクにある自分のスタジオで取材に応じたヘッドエイクに、後悔はなかった。「ストリートアートのルーツは、権利がなく、声を上げられない庶民にある」。当局から身を守り、できるだけ作品を広められるよう、顔にはマスクを着けていた。

「目的は、自分たちが言いたいのに言えない言葉を広めること。つまり、そこを歩く人たち、あるいは役人や一般の人が理解できるように描いている」

 時計の絵が有名になると、警察はヘッドエイクの監視を試み、市当局は国家を転覆させるグラフィティを塗りつぶすため街に繰り出した。

 プラウィット氏は多数の高級時計について、友人から借りた物だと弁明している。だが、9か月後の今も、この問題に関するタイの反汚職当局の捜査は終了していない。