【9月25日 AFP】ファッション業界で数少ない、大手ブランドとしては家族経営を続けてきたイタリアの有名ブランド、「ヴェルサーチ(Versace)」は、業界大手の「マイケル・コース(Michael Kors)」に買収される目前であると、金融メディアが24日に報じた。

 米国にルーツを持ち、本社を英国ロンドンに構える「マイケル・コース」は、早ければ今週中に買収を発表するのではないかと同メディアは、情報源は明かさずに伝えた。

 報じられている買収金額は様々で、20億ドル(約2258億2000万円)と伝えるところや、24億ドル(約2709億8400万円)と伝えるところもある。また、ブランドを率いるドナテッラ・ヴェルサーチ(Donatella Versace)は、買収後もブランドに残るのではないかとする専門家もいた。

 イタリアの全国紙コリエレ・デラ・セラ(Corriere della Sera)によると、「ヴェルサーチ」のアーティスティック・ディレクターでグループの副社長であるドナテッラは25日、スタッフミーティングを招集した。

 今回の買収は、2017年に14億ドル(約1580億7400万円)で「ジミー チュウ(JIMMY CHOO PLC)」を取得して以来となり、「マイケル・コース」は高級ラグジュリー市場にさらに食い込むことになる。「マイケル・コース」は1981年創業。ニューヨーク州ロングアイランド(Long Island)出身のデザイナーの名を冠している。

 またこれらの買収により「マイケル・コース」は、グローバルに様々なラグジュアリー商品ラインを展開する、仏パリを拠点とする「LVMH」や「ケリング(Kering)」、スイスの「リシュモン(Richemont)」などの競合に位置付けることになる。

「『マイケル・コース』による『ヴェルサーチ』買収のニュースは、激しい作品と審美眼、家族の大切さや独立性で知られていた同イタリアブランドのファンや顧客らに大きなショックを与えるだろう」と市場調査会社「ユーロモニター・インターナショナル(Euromonitor International)」のフローレンス・オールデー(Florence Allday)氏は話す。「しかしながら、近年苦戦するグローバルラグジュアリー市場、伸び悩む成長性、『ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)』『グッチ(Gucci)』『ディオール(Dior)』などによる激しい競争を踏まえると、今回の買収にあまり驚きはない」

「ヴェルサーチ」と「マイケル・コース」にコメントを求めたが返答はなかった。

■ラグジュアリー大手と互角に競争も

「ヴェルサーチ」の生みの親であるジャンニ・ヴェルサーチェ(Gianni Versace)は、伊カラブリア(Calabria)地方で裁縫師である母の下に生まれた。1978年に初のコレクションを発表。兄のサント(Santo Versace)がブランドの経営面を担当した。

 マドンナ(Madonna)や著名人たちがジャンニの大胆なデザインを身につけた。しかしジャンニは1997年にマイアミの自宅でアンドリュー・カナナン(Andrew Cunanan)によって射殺された。

 メデューサのロゴで知られる「ヴェルサーチ」は2014年、米国の投資ファンド運用会社「ブラックストーン(Blackstone)」に株式の20%を売却。残りは家族が保有している。

 グループは2016年、6億8600万ユーロ(約910億300万円)の売上を記録しており、売上高は「短期」で10億ユーロ(約1326億5800万円)を上回ると、ジョナサン・エクロイド(Jonathan Akeroyd)CEOは6月に発表。

「マイケル・コース」の2017年の売上は47億ドル(約5306億7700万円)で、株式を公開した2011年の8億ドル弱(約903億2800万円)から大幅な増加となった。

 ハンドバッグのブランド、そしてリアリティ番組「Project Runway」に出演した創業者であるマイケル・コースの存在で知られている。また、彼はミシェル・オバマ(Michelle Obama)やメラニア・トランプ(Melania Trump)、女優のジェニファー・ローレンス(Jennifer Lawrence)やテイラー・スイフト(Taylor Swift)らの衣装も担当した。

 中国での知名度向上のため、中国人女優兼歌手のヤン・ミー(Yang Mi)と緊密に協力していると、8月に行われた利益電話会議で役員らが明かした。同社はこの1年で24店舗をアジアにオープンした。

「マイケル・コース」のジョン・アイドル(John Idol)氏は8月、「ジミー チュー」の「ジョン」ラインの業績を称賛すると専門家に話すと同時に、高級ラグジュアリー市場で「驚き」の成長を見せた競合に「脱帽」すると話した。

 今回の買収で「マイケル・コース」は、「『ケリング』の強力なブランド『グッチ』と互角に競争できる」とユーロモニターのオールデー氏は明かす。また、このような合併より、独立した小さなブランドが「取り残され」、大きな企業のような「露出することが」金銭的にできなくなるリスクがあるとした。

 買収によって「ラグジュアリー市場での大リーグ入りの足掛りにはなる」と、調査会社グローバルデータ・リテール(GlobalData Retail)のニール・サンダース(Neil Saunders)氏は「マイケル・コース」についてコメント。「しかし、『ヴェルサーチ』はその名声がありながら売上を伸ばせなかったのも事実」「そのため『マイケル・コース』は理想的に稼働しているブランドではなく、再編の必要があるブランドを買収することになる」

 24日、「マイケル・コース」の株は8.2%、66.71ドルに下落した。(c)AFP/John BIERS