【9月24日 AFP】午前6時前。アルフレッドさん(仮名)は、すでに牛の搾乳で忙しい。だが、農場での作業が終わっても自宅には帰らない。彼が帰る場所は、刑務所の監房だ。

 スウェーデンでは、長い服役生活よりも受刑者たちの更生を優先している。首都ストックホルムの南西約300キロに位置するマリエスタード(Mariestad)の町には、警備を最小限に抑え、農場としての機能を合わせ持つ「オープン・プリズン(開放型刑務所)」がある。アルフレッドさんは、そこで社会復帰に向けた準備を行っている受刑者60人のうちの一人だ。

 銃の不法所持で4月から服役しているアルフレッドさんは、11月に釈放される予定となっている。50代で孫もいる彼は、動物たちと一緒に過ごす時間から得られる喜びを隠せない。「動物が好きだ。気持ちを落ち着かせてくれる」。野球帽を被り、腕じゅうにタトゥーを入れたアルフレッドさんは、ため息交じりにそう話した。

 ロジャン(Rodjan)と呼ばれるこの農場刑務所で、彼は毎日、同じ作業を日課としている。スウェーデンにはこうした農場刑務所が3か所あり、ロジャンはその中で最も規模が大きい。

 朝と夕方のそれぞれ2時間半、作業仲間のソフィアンさん(仮名)と顔を合わせるという。アルフレッドさんは「細菌予防のために(牛の乳房を)拭き、その後消毒するんだ」と楽しそうに話し、搾乳を始めた。

 他の受刑者たちは、作物への水やりや柵のペンキ塗り、芝刈りなどの作業を行う。家畜の世話を担当しているのは、10人ほどだ。

■自由に暮らす、開放型刑務所

 スウェーデンは、世界で最も受刑者が少ない国の一つだ。スウェーデンとフランスの統計によると、人口1000人当たりの受刑者の割合は、フランスが1人、スウェーデンはその半分の0.5人だ。

 スウェーデンでは被告に対し、足首に監視用のブレスレット(足環)を取りつけたり、刑罰として社会奉仕活動を科したりしつつ、執行猶予を言い渡すことが多い。また刑期の3分の2を終えた受刑者は出所させている。

 さらに、釈放後あるいは刑期を終えた後に再び犯罪に手を染める人は全体の3分の1未満で、これもフランスの半分だ。

 スウェーデンのすべての刑務所では、受刑者それぞれに独房が与えられる。ロジャンでは、施錠もされていない。監視カメラやゲート、有刺鉄線なども設置されておらず、受刑者らは自由に動き回ることが許されている。

 こうした開放型刑務所は、スウェーデン全体に10か所以上ある。ロジャンの受刑者たちが有罪判決を受けた理由は、無免許運転から脱税、暴行に至るまでさまざまだが、社会に脅威を与えないと判断された上でここに収監されている。

 搾乳を終えたアルフレッドさんは、牧草地の柵を閉めながら、受刑者よりも牛の方が閉じ込められていると冗談を言った。

■「感銘を受ける仕事ぶり」

 受刑者たちは、時給13クローナ(約160円)で週35時間働き、週2日の休日を与えられている。

 だが休日でも「問題がないかどうか確認するため」定期的に小屋に足を運ぶとアルフレッドさんは語った。

 ロジャン刑務所のブリットマリー・ヨハンソン(Britt-Marie Johansson)所長は、他の受刑者たちも、休日と牛の出産日が重なった時に「どうでしたか? 子牛は大丈夫でしたか?」と電話をかけてきたことがあると、ほほ笑みながら語った。

 農場の生産責任者であるマイケル・ヘニンソンさんは、受刑者らの仕事ぶりを高く評価している。「多くの受刑者は、一度もやったことがないことでも非常にうまく作業している。(わずか数日の訓練の後で)彼らの取り組む姿勢には感銘を受ける」と笑顔で語った。

 同農場は2012年、牛乳の品質の高さを評価され、カール16世グスタフ(King Carl XVI Gustaf)国王から賞を授与されたこともある。ヘニンソンさんによると成功の鍵は、農場運営に必要とされる厳格な日課にあるという。

 一方、アルフレッドさんは牛たちと過ごす時間を楽しんではいるものの、刑期を終えた後に農場関係の仕事に就くつもりはないという。幼少期に祖父の農場で牛に囲まれて育った彼は「その世話がどんなに大変か目の当たりにした。あまりに重労働だ」と話した。

 映像は7月4日撮影。(c)AFP/Hélène DAUSCHY