【9月21日 AFP】地球温暖化の進行に対策が追いつかない中、海中に巨大な構造物を建造することで、氷河の海中への流入を阻止しようとする案が20日、欧州地球科学連合(EGU)の専門誌「The Cryosphere(雪氷圏)」に掲載された。対象となる南極の氷河は英国程度の大きさで、海に流れ込むと世界の海水面が数メートル上昇する恐れがあるという。

 西南極のスウェイツ氷河(Thwaites Glacier)を陸上に留めるために提案された2案は、小規模な方ですら、氷河の棚氷を支えるためにエッフェル塔(Eiffel Tower)サイズの柱を複数、海底に建造するという、パナマ運河(Panama Canal)やスエズ運河(Suez Canal)級の工事スケールだ。

 もう一つの案は、棚氷の下に高さ100メートル、長さ80~100キロメートルの海中壁を建設し、海底を流れる温水が氷河の底部を侵食して不安定にするのを阻止するというものだ。

 これらの野心的な計画は、温室効果ガス排出の抑制対策は必要不可欠ながらも、気候変動の破壊的影響を回避できるほど早く実現しないかもしれないという認識の高まりを反映している。

 論文の主執筆者、米プリンストン大学(Princeton University)地球物理流体力学研究所(Geophysical Fluid Dynamics Laboratory)の研究員マイケル・ウォロビック(Michael Wolovick)氏は、「スウェイツ氷河は突然の氷床の崩壊を簡単に誘発する可能性があり、究極的には世界の海水面を約3メートル上昇させることになる」と指摘する。

 温室効果ガス排出量の削減だけでは不十分だ。2015年に採択された地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定(Paris Agreement)」では、世界の気温上昇を産業革命以前に比べて2度未満に抑える目標が掲げられたが、実現できるかどうかは、大気中から大量のCO2を除去できるかどうかにかかっている。

 その結果、宇宙空間に粒子を放出して太陽光線をそらす、地中にCO2を貯留する、バイオ燃料用作物を植えるといった、一旦は実行不可能または不要、あるいは明らかに危険として退けられていた地球工学計画が、科学と政策に関する討議の周辺から中心へと急速に浮上したのだ。

 だが、こうした計画はどれも海面上昇に直接対処するものではない。海面上昇は気候による影響の中でも、人類に最も甚大な被害をもたらす可能性が高い。今世紀末までには、特にアジアとアフリカで、人口が密集するデルタ地帯や島国数十か所が水面下に沈む恐れがある。(c)AFP/Marlowe HOOD