【8月15日 AFP】サッカーW杯ロシア大会(2018 World Cup)やイングランド・プレミアリーグで輝きを放ってきた韓国代表FWの孫興民(Heung Min Son、ソン・フンミン)――。しかし、今後のキャリアの命運は良くも悪くも、今週からインドネシアで行われる第18回アジア競技大会(18th Asian GamesAsiad)の結果次第となる。

 プレミアリーグにおけるアジア人の最多得点記録保持者であり、母国でも広く知られた著名人である孫は、間違いなく今大会一番のスター選手である。しかし、健康な韓国人男性は、富や名声に関係なく、28歳になるまでに最低でも21か月は兵役義務に服さなければならず、孫は連覇を目指す韓国代表で今大会を制することで、五輪のメダリストといったごくわずかの一流スポーツ選手だけに許される、免除権を手にしたいともくろんでいる。

 韓国人選手が兵役を免除されるには、このアジア大会で金メダルを獲得するしかない。共にW杯に出場した日本やサウジアラビア、イランといった国々が参加する中、優勝候補として今大会に臨む韓国は、そうしたライバル国とは異なり、母国のスターを加えるため、23歳以上の選手の出場を許可する3人分のワイルドカードを使うことに決めた。

 仮に今大会で金メダルを逃した場合、現在26歳の孫は約2年間の兵役義務を余儀なくされる。それは孫自身にとってだけでなく、韓国代表、そして所属するトッテナム・ホットスパー(Tottenham Hotspur)にとっても深刻なダメージとなる。そこで所属先のトッテナムは、もし決勝に進めば孫がプレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッド(Manchester United)戦を含む3試合を欠場する可能性があると知りながら、韓国に歩み寄る姿勢を見せた。選手としてピークの年齢に差し掛かる中でサッカー界から2年も離れれば、キャリアに大きなダメージを与えかねないということを、トッテナムと孫本人も理解しているのだ。

 7月にトッテナムとの間で新たに5年間の契約を結んだ孫は、今年11月に行われる韓国代表の国際親善試合に加え、来年1月の第17回アジアカップ(2019 AFC Asian Cup)で2試合欠場することを交換条件に、チームからの離脱を認められた。孫は11日、英ニューカッスル(Newcastle)で行われた今季の開幕戦で勝利を収めると、トッテナムのチームメートに別れを告げ、約1万2000キロメートルを移動して戦いの場であるジャカルタへと渡った。

 アジア大会は国際サッカー連盟(FIFA)の主催ではないため、クラブには選手を代表チームにリリースする義務はない。そのため、韓国が北朝鮮との接戦を制して優勝した前回大会では、当時所属していたドイツ・ブンデスリーガ1部のバイヤー・レバークーゼン(Bayer Leverkusen)がチームからの離脱を拒否したため、孫は欠場している。

 もし韓国が今回のアジア大会で優勝を逃すと、トッテナムが新しく建設した最先端のスタジアムでの孫の生活は、最大30人の兵隊が同じ部屋で寝るといわれる兵舎での暮らしに変わる。

 兵士たちは毎月わずかな給料で、戦車の操縦から北朝鮮との軍事境界線での巡視に至るまでさまざまな任務が課される。厳格なことで知られた食事は少なくとも過去10年で改善され、兵士には米や肉、スープ、そして韓国の食文化を代表するキムチが与えられる。

 孫と同じ状況のエリート選手は他にもいる。W杯のドイツ戦で見事なセービングを立て続けに披露したGKのチョ・ヒョンウ(Hyun-Woo Cho)と日本でプレーする黄義助(Ui-Jo Hwang、ファン・ウィジョ)も、今回のアジア大会が兵役を免除するための最後のチャンスとなる。しかし、プレミアリーグで急成長していることを考えると、孫に対する見返りの方が大きいだろう。

 韓国の優秀な選手のほとんどは兵役期間中、Kリーグの尚州尚武FC(Sangju Sangmu FC)という軍隊のチームでサッカーを続けることができるが、孫は国内リーグに在籍した経験がないため、同クラブでプレーする資格はない。韓国は15日の初戦でバーレーンと顔を合わせ、その後はマレーシアとキルギスと対戦。決勝は9月1日に行われる。(c)AFP/Andrew MARSZAL