【8月13日 AFP】フィリピンの首都マニラの荒れた街角の宴会ホールで、アル・エンリケスさんはまるで脱皮するように、擦り切れた露天商の服を脱ぎ捨てた。次にまとったのは、紗(しゃ)のガウン。ブロンドのカールのかつらをかぶると、きらめく流行の最先端といった雰囲気が醸し出された。高齢の貧しいゲイたちのためのビューティーショー。出演者の中で、82歳のエンリケスさんはスターの一人だ。

 だが、これは低俗なやじの飛ぶ観光客向けの女装ショーではない。彼のような同性愛者の男性たちの共同体が、自活していくために数十年間続けている取り組みの一環だ。彼らは自分たちを「ゴールデン・ゲイ(黄金のゲイ)」と称しているが、それは本当だ。

 エンリケスさんはAFPの取材に「こうした装いをすると恍惚(こうこつ)とした気分になり、自分の内側に悲しみなど何もないように感じる」と語る。「自分はゲイだし、ゲイであることを恥じていない」

 フィリピンは同性愛に対してオープンだといわれているが、事情通によると、法的な保護は不十分で、この国の脆弱(ぜいじゃく)な社会的セーフティーネットは、特に高齢の同性愛者の役には立っていない。

 そこでゴールデン・ゲイでは企業や個人のスポンサーを募り、ビューティーショーを月1回以上、開催している。そのスポンサー料で、メンバーたちはきちんとした昼食や数日分の食料品を入手する。グループの主催者であるラモン・ブサ氏(68)は「ショーは、われわれの感謝を表現する方法の一つなだけ」だと説明する。