■「兄弟、ゆっくりな」

 時には、心温まるケースもある。

 あられ交じりの小雨のある日、胡さんは雨がっぱを着て料理の出来上がるのを待っていた。客が電話をかけてきて、なまりのある中国語。外国人だと思われた。「兄弟、今日は天気が悪いから、急がなくていいよ、ゆっくりな」と言う。

「お心遣い、ありがとうございます」。胡さんはちょっと感動した。

 出前を届けに客の家のドアを開けると、「兄弟、ご苦労さん!天気が悪かったな。これはほんの気持ちだ」と言い、その外国人は20元(約340円)札を渡そうとする。

 胡さんは繰り返し、「チップはいただけないルールになっているのですが」と説明したが、客は「チップを受け取らなければ、この料理も受け取らない」と引き下がらない。

 胡さんはやむなく、チップを受け取ったふりをし、料理の下にこっそり20元札を差し込んで客に渡し、逃げるようにその場を離れるしかなかった。

 その後、システムの中で、この時の注文には16.6元(約280円)の「賞金」が贈られたことを知った。そこには外国人のあやしい中国語で「好評」が残されていた。

 お金や「好評」よりも、胡さんは未だに忘れられない言葉は、その外国人が言った「兄弟」の一言だ。

 出前の配達員には、種々、さまざまな人ととの出会いがある。毎日、一人住まいの高齢者に昼食を届ける娘や失恋したばかりの男、出前の配達員に酒を飲ませようとして断ると「×」評価を付けると脅す女や、レストランの従業員が他店の料理を試食するために出前を頼む、とか。

 この2年来、多くの出稼ぎ農民が出前の配達をやるようになった。近くの地下鉄工事現場では、チャーハンの注文が大量に来る。一人前10元(約170円)ほどだが、注文数が多ければ値引きの対象になるからだ。

「黄悶鶏(Huang Men Ji)」(鶏肉の蒸し煮料理)を注文したある女の客。胡さんは5階の配達先まで行きドアをノックしたが、反応がない。電話をすると、客は「ドアの入り口のゴミをついでに持って行って。料理は自分で食べて」と言う。

 胡さんは、客の考えが分かった。自分で1階までゴミを持っていけないから出前を呼び、タダでやってもらうという訳にもいかないので、出前の料理をゴミのお礼として支払おうとしているのだ、と。

 胡さんは喜んで、自分が運んできた「黄悶鶏」を喜んで平らげた。(c)東方新報/AFPBB News