【7月15日 東方新報】信号が青に変わると、中国の出前サービス大手の餓了麼(Ele.me)配達員の胡根偉(Hu Genwei)さんは勢いよく交差点を渡っていく。

 深夜の道路は車は少ないが、昼間市内に進入できない大型トラックが増える。10メートル以上の長さのタンクローリーが、轟音を上げて胡さんの傍らを追い越していく。インターネットでも、しばしば胡さんのような配達員の事故が報じられている。胡さんの仲間の身にも何件か起こっている。

 同じころ、ブラジルはネイマール(Neymar da Silva Santos Junior)がシュートを放ち、この試合の初得点をたたき出した。

 胡さんの同僚の陳双喜(Chen Shuangxi)さんはブラジル勝利のくじを買っていたが、あまり気分はすぐれない。というのも、陳さんはたったいま、客から評価「×」を受けて、悩んでいたからだ。

 陳さんのスマホには多くの注文が入り、受信音が鳴りやまない。全部注文を受けても配達は回りきれない。そう思った陳さんは、仲間に頼むことにした。

 客からの一個の「×」は30元(約500円)の罰金を意味する。もし、接客態度が悪いとクレームを受ければ、どんな理由があっても、自動的に300元(約5000円)の罰金だ。「×」評価の原因が遅延である場合を除いて、異議を申し立てる余地はない。

 胡さんが送り届けようとしている注文も、そろそろ遅延しそうだ。客が当初記入した住所が誤っており、それだけ時間を無駄に使ったからだ。修正後の住所は、マンションの入り口の門に鍵がかかっており開かない。色々と手間をかけて何とか開けてもらったが、スマホは「遅延時刻が迫っています」と警告を出し続けてくる。胡さんは階段を6階まで駆け上った。

 路上に止めたバイクの後部座席には、次の配達先に届ける料理が置いてあった。幸いなことに杭州の治安は良いので、盗まれることはめったにない。以前、盗られたことが無かったわけではないが、盗まれたら自分で弁償するしかないとあきらめればよい。