【7月14日 東方新報】W杯は、梅雨と共に中国・浙江省(Zhejiang)杭州市(Hangzhou)にもやってきていた。

 午後10時の建国路(Jianguo Road)の「焼肉通り」。店はどこも満員で活気に満ちている。客らはシャツをたくし上げ、へそを丸出しにして、額には汗をにじませながら精力的に箸を動かしている。出前配達用バイクが、店の外に列を作って出発を待っている。この街の夕食は、ほとんどこの時間帯に集中するのだ。

 サッカーW杯ロシア大会(2018 World Cup)の試合の前半が半分も終わらぬうちに、配達員のスマホが鳴り始めた。画面には「新しい注文が入りました!」の文字が浮き上がる。

 配達員の胡根偉(Hu Genwei)さんは、きれいに包んだ臭豆腐(Chou Doufu)とカリフラワーの炒め物の袋を手に、焼肉店の壁にかかったテレビ画面に目をやった。店の入り口からテレビまで7~8メートルはある。画面のサッカー選手たちは米粒のように小さく見える。

「もっと近くに来たら? 一緒に見ようぜ」。胡さんに気付いた店長が声をかけた。

「俺は目が良いから大丈夫」。胡さんは笑いながら店長の方を向き、「仕事が入っちゃったから、またくるよ」。手を振って出前袋を見せ、店を出た。

 胡さんにとって、この店は最も居心地の良い場所だ。実家の安徽省(Anhui)から杭州に出稼ぎにきている胡さんは、出前の配達をもう2年やっている。担当地域はずっと同じ場所で、焼肉店の店長や店員とはとっくに仲良くなった。

 客が少ない時や注文待ちの時は店の中に入り、座って待つことにしている。テレビはいつもバラエティー番組を流しており、胡さんは興味ないので見ない。だが、W杯が開幕してからは試合中継を映しているので、胡さんも目が離せない。

 遠く千キロ離れた、北京市東直門(Dongzhimen)の簋街(Guijie)。ここでも同じ光景が見られる。簋街は杭州に比べて街路は長く、店の数も多く、試合を見る観客もスクリーンの数もはるかに多い。

 店の入り口には、杭州と同じように出前配達や運転代行の人たちがたくさんたむろしている。

 店外の大スクリーンのところで、出前配達員の向華(Xiang Hua)さんは、電動バイクに腰かけ、仲間たちとお菓子を分け合ってモグモグタイムだ。ときどき、顔を上げてスクリーンの方を見る。

 スクリーンの周辺にたむろしているのは、バイク便「閃送(Shansong)」や出前配達のライダー、運転代行のドライバーたちだ。互いに特に親しくもないが、時には試合の情勢についてしたり顔で評論しあったり、時には荒っぽい言葉でののしったりする。要するに、ここでは皆、同じサッカーファンなのだ。