■配達先の大歓声が気になる

 街角にあるインターネットバー。

 Tシャツ、短パン、サンダル履き…。サッカーファンの「標準スタイル」の中年男が二人、パソコンの前に座り、イヤホンを耳に着け、胡さんが配達した串焼きを頬張りながら試合を見ている。

「出稼ぎに来た農民たちだよ。家の中ではうるさいと嫌がられるから、出てきたのさ」と、胡さんは言った。

「普段なら、夜の出前は、ホワイトカラーからの残業飯の注文がほとんど。W杯が始まってからはサッカーファンが多い。サッカーファンに出前を届ける瞬間、ちょっとだけその家のテレビの画像をのぞくことができる。ただ、数秒ではゴールの決定的な瞬間を見ることはできないから歯がゆいな。見られたとしても、どちらのチームが優勢か、ぐらいか」

「でも、配達の時には様々な画像を見られるんだ。ある店は、壁に直接、大きな画像を投影していたり、また、ある店はスクリーンを数個並べて一つのの巨大スクリーンにしていたり」

「マンションの家の入口まで届ける時には、部屋の中から試合の実況中継の音が聞こえてくると、我慢できずについ、何対何か?とお客さんに聞いてしまう」

 今、胡さんが送り届けようとしている品は、あるビアガーデンで試合を見ている客に届けるつまみだ。客は2階におり、出前を持って階段を上がりかけると、1階と2階の両方から大歓声が沸き起こった。

 ブラジル対メキシコの試合で、前半40分が過ぎたところだ。ブラジルのセンターフォワードのガブリエウ・ジェズス(Gabriel Jesus)がゴール前に走り込み、小角度でシュート。このシュートは、メキシコのゴールキーパーのギジェルモ・オチョア(Guillermo Ochoa)に阻まれた。

 胡さんは、トトトンと階段を駆け上がり、出前を客のテーブルの上に置き、2階から降りようとすると、スマホが鳴り、次の注文がまた入ったことを知らせた。

 胡さんは2秒だけその場でスクリーンを見てから、階段の方へもどって行った。「焦ったぜ、ゴールしたかと思ったよ」(c)東方新報/AFPBB News