【7月13日 AFP】サッカードイツ代表がW杯ロシア大会(2018 World Cup)で屈辱的な敗北を喫して以来、トルコ系の代表選手に対する非難が殺到している。こうした動きは明らかな人種差別だとイスラム系団体や移民団体は批判している。

 メスト・エジル(Mesut Ozil)選手(29)は、ドイツが敗退するとまたたくまに極右のポピュリストのスケープゴートにされた。しかし非難がエスカレートしているにもかかわらず、ドイツサッカー連盟(DFB)会長までもが、エジル選手をかばうどころか、同選手を代表から外すべきだったとの見解を示した。

 エジル選手とチームメートのイルカイ・ギュンドアン(Ilkay Gundogan)選手(27)は、W杯開幕直前に、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdogan)大統領と並んで写真を撮影したことで、大会前から物議を醸していた。

 エジル選手とギュンドアン選手が出生国のドイツと、2人の祖先の国でありドイツに暮らす300万人のトルコ系の人々の祖国でもあるトルコのどちらにより強い忠誠心を持っているのか白熱した議論が繰り広げられた。イングランド・プレミアリーグのマンチェスター・シティ(Manchester City)でプレーするギュンドアン選手はこうした論争に対する失望の声を上げた。しかし同リーグのアーセナル(Arsenal)でプレーするエジル選手は沈黙を守っており、この沈黙が非難を勢いづかせている。

 非難の急先鋒となっているのが反移民・反イスラムを掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」だ。AfDは以前から移民・難民に門戸を開いたアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相の姿勢を激しく非難してきた。AfDのイェンス・マイヤー(Jens Maier)議員はツイッター(Twitter)で「エジルがいなければ勝てた!」と激しく非難。笑顔のエジル選手の写真に「満足していただけましたか、(エルドアン)大統領閣下?」とのコメントを記した写真も投稿した。

 このような強烈な挑発を行うことで注目を集めてきたAfDは、ドイツ代表は白人のドイツ民族で構成されるべきだと繰り返してきた。しかしイスラム系をはじめとする少数派団体は敗戦責任の追及について、移民・難民問題が重要な政治問題となっているこの時期に、社会が右傾化している危険な兆候だと指摘している。

 ドイツのトルコ系コミュニティーのジハン・シナノール(Cihan Sinanoglu)氏はDPA通信に対し、両選手が国家に対して忠誠ではないと非難されたことは多くのドイツ人が本音では「融和と多文化主義は失敗した」と考えていることを証明していると語った。

 作家のバハ・ギュンゲル(Baha Gungor)氏はケルン(Cologne)の新聞に対し、元フランス代表のカリム・ベンゼマ(Karim Benzema)選手の例を挙げた。アルジェリア系のベンゼマ選手はかつて、「点を取ればフランス人扱いされるが、ミスをすればアラブ人扱いされる」と発言していた。

 ギュンゲル氏はスウェーデンのジミー・ドゥルマズ(Jimmy Durmaz)選手の例についても言及。シリア系のドゥルマズ選手が人種差別の被害を受けると、スウェーデン代表が一丸となって「人種差別なんかくそくらえだ」と声を上げ、ドゥルマズ選手を擁護していた。

 エジル選手の父親のムスタファ・エジル(Mustafa Ozil)氏(50)は、独紙ビルト日曜版(Bild am Sonntag)に対し「勝った時は力を合わせて勝ったと言っていたのに、負けた時はエジルのせいか?」と語った。(c)AFP/Frank ZELLER and Christophe BEAUDUFE