■男女差別が根強いロシア社会

 モスクワを拠点とするデザイナー、アンナ・ネステロバ(Anna Nesterova)さん(50)は、欧米諸国に比べるとロシアでは子育てにおける祖母の役割が大きいため、年金改革は若年層の世帯にも影響を及ぼす恐れがあると指摘する。

「子どもを保育園に行かせるか、おばあちゃんに預けるか、選択肢はありますが、多くの人は家族に預ける道を今も選んでいます」と、AFPに話した。

 専門職の女性の支援団体を運営しているアリョナ・ポポバ(Alyona Popova)さんは、ロシアでは年配の女性に対する考えが欧米諸国とは「大いに異なっている」と話す。

「ロシア社会は男女差別が根強く、年金を受け取れる年齢の女性は、家庭で孫の世話をしながら過ごすべきだと思われがちです」

 これはソビエト時代からの考えだとポポバさんは主張する。年下の女性に自分の立場を奪われるのではないかと心配する女性たちもいるという。

「私たちのところにやって来る多くの女性たち、特に教師だった女性が多いのですが、仕事も見つからない、お金もないと言うのです。お金は自分の子どもや孫のために使ってしまっているんですよね」

 ポポバさんによれば、年金改革の打撃を最も受けるのは女性と貧困層だ。

 一方、仏パリを拠点とするロシア人アナリストのタチアナ・スタノバヤ(Tatiana Stanovaya)さんは、ロシア人は早期年金を「社会的不公正に対する一種の補償」だと見なしているのだと説明した。

「ロシア人は、人生においてさまざまなこと、政治的権利が限られていることにも耐える覚悟をしています。だからこそ、(早期年金は)もらって当然、社会的に勝ち得た権利だと捉えているのです」

 ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は極めて高い支持率を維持していたが、年金改革を承認したことを機に下落した。国民が政府に怒りを表明するという異例の事態に発展したロシアでは今、改革撤回を求めるオンライン署名者が250万人を超えている。(c)AFP/Ola CICHOWLAS