【6月21日 AFPBB News】音楽や鮮やかな映像が空間を満たすと、観客は総立ちに。一見したところ一般的な音楽フェスのようだが、DJは腰かけたまま手を使うことなく眼鏡越しに送る視線で、音楽や映像をコントロールする。小さなまばたき一つで、カラフルな映像が次々とスクリーンに映し出された。

「EYE VDJ」と呼ばれる、新たなパフォーマンス方法だ。2016年に世界で初めて実現させたのは、DJ「MASA」こと武藤将胤(Masatane Muto)さん(31)。このイベントは、東京・江東で19日に行われた音楽フェス「ムーブ・フェス2018(MOVE FES. 2018 Supported by Hard Rock Experience)」。全身の筋力が徐々に低下していく難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)について啓発する「世界ALSデー(World ALS Day)」(21日)に合わせて行われた。武藤さんもALS患者のアーティストとして、パフォーマンスを披露した。

 武藤さんは、広告プランナーとして働いていた5年前にALSを発症。ALSへの理解、治療や支援制度の向上を目指して、支援団体「WITH ALS」を設立する一方、衣類の商品開発や、メディア出演、今月には著書も刊行するなど、活動の勢いは加速している。

 イベントで披露した「EYE VDJ」は、ALSによって筋力が衰えたとしても、比較的動かせるとされる眼球運動を利用している。「テクノロジーのおかげで、まだ日々挑戦できることに感謝」。ステージであいさつした武藤さんは、以前はシステムの準備に時間がかかり30分も客を待たせたこともあるが、今年はセッション数もこれまでで一番多くできたと満足そう。

 武藤さんは、趣旨に賛同して参加した「Def Tech」ら十数組のアーティストらと共に、合言葉の「キープ・ムービング」を自ら示し、来場者には共感の輪が広がっていた。

 来場した都内の幼稚園教諭の30代女性は、「ちょっとしたことで、へこんでられない」と勇気づけられた様子。また、13歳と10歳の子どもら家族4人で参加した神奈川県の女性は、「どういう将来を作りたいか、子どもたちと考えるきっかけになった」と話した。

 今日できていることが、明日はできないかもしれないという病状が進む現実。武藤さんは「毎日、不安や恐怖はあるけど、ネガティブな感情からは何も生まれない」と、目に力がこもる。2020年の東京パラリンピック(Tokyo 2020 Paralympic Games)の開会式出場を目指してプランを練っている。(c)AFPBB News