■ブロークンハート症候群

 オハラさんは、火災が起きた後の数か月間、ホテル、ホステル(簡易宿泊所)、仮説住宅を転々としていた。

 そして昨年末、グレンフェル・タワーの所有者である地方自治体が、数マイル離れた場所のバルコニー付きの新築住宅にオハラさんらを無期限で入居させることを決めた。

 火災の後、新たな住宅が提供されたのは、住まいを必要とする209世帯のうちオハラさんを含めわずか82世帯だ。

 しかし、この新たな土地に何のゆかりもないオハラさんは、これまで長年過ごしたグレンフェルを定期的に訪ねているという。「別の場所に移動させられた感じがしている。元の場所が恋しい」

「あれから1年が経過したが、今も大きなストレスを感じている。怒りや生き残ったことへの罪悪感、心の痛みなど──多くのものが心の中で入り乱れていて、とても感情的になっている」

 オハラさんは、ブロークンハート症候群と診断されており、今後一生、薬による治療が必要なのだという。

 火災から2か月後、オハラさんには、その置かれた境遇をわずかながら耐え得るものに変えてくれる嬉しい出来事があった。

 ロージーとの再会だ。ロージーにはマイクロチップが埋め込まれていたため、獣医が連絡先を探し当てることができたのだという。ロージーの顔には、小さな傷があった。

 再会した時のことをオハラさんは今もよく覚えている。「心に大きな傷を負っていた。再び感情的になり(思わず)泣いてしまった」(c)AFP/Joe JACKSON