【6月12日 AFP】世界で最後に残された冷戦(Cold War)の前線となる板門店(Panmunjom)──ここでは長らく、韓国と北朝鮮の軍がにらみ合いを続けてきた。それが今や、プロパガンダを流してきたスピーカーは沈黙。配備されている北朝鮮の兵士らは興奮した面持ちを見せ、12日にシンガポールでドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)朝鮮労働党委員長が行った歴史的な米朝首脳会談によって、自国に新しい時代が訪れるのではないかと期待を寄せていた。

「これまでわれわれは(軍事境界線の)向こう側にいる軍に否定的な感情を持っていた」と、ファン・ミョンジン(Hwang Myong Jin)中佐はAFPにこう話した。「だが、好意を持って接してくれて、関係を改善したいと思っている相手とは、敵対した過去があったとはいえ、友人にもなれるし、手をつないで同じ道を歩んで行くこともできる」

 ファン中佐は米朝首脳会談を「前向きに」捉えていたと話した。同会談で、両首脳はがっちりと握手を交わした。

「わが国は、これまで大国の間で押しつぶされてきた……だけど今日われわれは、独立国としての尊厳を世界中に示している」(ファン中佐)

 中佐は、4月に金委員長と韓国の文在寅(ムン・ジェイン、Moon Jae-in)大統領が初めて行った南北首脳会談で植樹された松の木を興奮気味に指さした。この歴史に残る会談を記念し、両首脳がそれぞれの国の山から運ばれて来た土を根元にかけて植えた松の木だ。

「私は最初のうちは非常に神経をとがらせていた」と、中佐は首脳会談を振り返った。「わが国の最高指導者が危険な南側に渡って行くのだから」。だが、金委員長が手をつないだ文大統領を北側に導いて戻って来たときに「統一の日は近いのではないかと思った」という。

 しかし、北朝鮮の人々の心境に変化が訪れたのは最近のことだ。

 AFPが前回、南北間の非武装地帯(DMZ)を取材したときに同行した当局の職員は、米国の「本性」は「(南北朝鮮の)和平を阻む」ことだと話した。

「兵士という立場としては」と、その職員は続けた。「私の頭の中には、できるだけ速やかに米国を韓国から追い出し、わが国を統一することしかない」

 一方、平壌の中心駅の外側にある掲示板にはこれまで長いこと、軍事演習やミサイル発射実験の様子を捉えた画像が掲げられてきたが、いまはインフラ整備や農業の事業に関する写真が展示されている。

 しかし、平壌にある観光客専用の羊角島(Yanggakdo)ホテルのロビーにある書店の窓には、米国をミサイルで狙う画像をあしらった反米プロパガンダを示すポストカードが今もまだ飾られていた。(c)AFP/Ed JONES