【6月11日 AFP】世界最高峰エベレスト(Mount Everest、標高8848メートル)のベースキャンプで活動する3人の医師たちは、山頂付近でシェルパ(ネパール人山岳ガイド)の頭に落石が当たったという一報が無線機から聞こえると、素早く行動に移った。シェルパの救出は、予測不可能なこの山との生死をかけた闘いになるだろうと肝に命じながら。

 彼らは、負傷したシェルパを救急ヘリコプターに乗せてベースキャンプのヘリポートまで運ぶと、夜間離陸用の照明が今にも消えそうなことに警戒しながら、そのまま機内でシェルパに応急措置を施す。ふもとのルクラ(Lukla)村にある病院にヘリで搬送するまでのさらに20~30分間、シェルパがどうにか持ちこたえることを祈りながら。

 エベレストの緊急診療所(ER)にこの2か月間、詰めている3人の医師の一人、スバシュ・ダワディ(Suvash Dawadi)さんは「患者は出血していたので、われわれはまず止血してから、ふもとに下ろしました」と語った。

 エベレスト唯一のこのERでは登山シーズンが到来するたびに医師たちが、高山の極寒や荒々しい気象と闘いながら、病気やけがをした登山家たちの命を救っている。

 標高5364メートルでテント式診療所を運営するのは、至難の業だ。夜間に薬剤が凍ってしまったり、強風でテントが飛ばされそうになったり、低温のために心臓モニターが作動しなくなったりすることもある。

 15年前にこの簡素な緊急診療所が設置されて以来、過酷なエベレストの斜面でトラブルに遭い、この施設のおかげで一命を取りとめた外国人登山者は数えきれない。だがこのERには、さらに大きな目的がある。多額の収益を上げているエベレスト登山産業を支えるシェルパたちに、低料金で医療を提供することだ。

 整形外科医のスバルナ・アディカリ(Subarna Adhikari)さんは「エベレストにERが設置される前は、シェルパには本来あるべき保障がまったくありませんでした」と説明した。