【6月23日 AFP】そびえ立つ巨大な木造建築を見上げながら、エロル・バイタス氏は首を横に振り、「この冬を越せるか分からない」と言った。足元には壊れたタイルや板が散乱している。

 この特徴的な6階建ての木造建築は19世紀末、トルコ・イスタンブール(Istanbul)沖の島に建てられた。マルマラ海(Sea of Marmara)に位置するプリンス諸島(Princes’ Islands)の一つ、ブユック(Buyuk)島の丘の上に建ち、イスタンブール中心部からはフェリーで約90分かかる。

 元はギリシャ正教(Greek Orthodox)の孤児院だったが、1960年代初めに閉鎖された。それから50年以上たった今、ボロボロになったプリンキポ・ギリシャ正教孤児院(Prinkipo Greek Orthodox Orphanage)は倒壊する危険がある。

 建物は欧州最大の木造建築物で、世界では2番目に大きいと言われている。文化遺産保護のNGO、「ヨーロッパ・ノストラ(Europa Nostra)」は貴重な建物を守るために、欧州大陸の7大危機遺産の一つに指定した。「まだ建っているのが奇跡だ」と、30年以上建物を守ってきたバイタスさんは言った。

 設計者はイスタンブールのホテル、「ペラパレス(Pera Palace)」の設計も手掛けたフランス系トルコ人建築家、アレクサンドル・ワリョリー(Alexandre Vallaury)。ペラパレスは1898年に完成したが、ホテルでギャンブルを行うのは不道徳だとして当時、オスマン帝国の皇帝アブデュルハミト2世(Abdulhamid II)は開業許可を出さなかったという逸話がある。

 今日、イスタンブールにいるギリシャ正教徒は約3000人と少ないが、彼らは時間切れになる前に老朽化した元孤児院を救いたいと決心している。今年の夏に専門家チームが現地を訪れ、建物の修復に必要な作業と金額を調査する。地元の報道によると、修繕費は5000万ドル(約55億円)程度に上るとみられている。(c)AFP/ Gokan GUNES