【5月31日 AFP】多くの人を心から感動させた握手、北朝鮮の指導者が初めて生中継で姿を現し、韓国の指導者に友達のように接したこと──4月に行われた歴史的な南北首脳会談が生み出したのは、シュールな光景だった。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong Un)朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅(ムン・ジェイン、Moon Jae-in)大統領の会談で、北の指導者は1953年に朝鮮戦争(Korean War)が休戦して以降初めて韓国の領土に足を踏み入れた。南北首脳会談は11年ぶりだった。

 だが、首脳会談を取材したAFPのジャーナリストたちは、この歴史的かつ感動的な出来事を注意深く見守っている。韓国と北朝鮮は休戦以来、2000年と2007年の2回、首脳会談を行っている。そして首脳会談後は毎回期待が高まったものの、長期的な合意として形になることはなかった。

 6月に予定されているドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領と金委員長による米朝首脳会談があらゆる南北合意のカギとなる、という見方で私たちジャーナリストの意見は一致している。

ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の顔がデザインされた米朝首脳会談の記念硬貨(撮影日不明)。(c)AFP

■セバスチャン・ベルガー(Sebastien Berger、AFPソウル支局長)

 総合的に見て、今回の南北首脳会談の視覚的効果と象徴性は信じられないほどで、非常に私的な会談となった。私にとって見どころは3か所あった。まず金委員長が文大統領に北側にも足を踏み入れるよう誘い、その後2人が手に手を取って南側へ戻った冒頭の瞬間。私たちはこれを「境界線上のダンス」と名付けた。計画にも台本にもない行動で、全く予想外の出来事だった。

 それから「森の中での歓談」もあった。文大統領と金委員長が屋外のテーブルに着き、雑談した場面だ。そこでは、驚くべきボディーランゲージが見ものだった。金委員長は恭しく見え、おそらく敬意を表してさえいた。そして会談の終わりの式典で、建物に映し出されたその日を振り返る映像を2人は数分間手をつないで見ていた。「ブロマンティック(ブラザーとロマンティックをかけた造語)」だった。

 今いっときの世論の波に乗ることは簡単だが、実体はほとんどない。首脳会談の最後に出された宣言の大部分はこれまでにも言われてきたことの繰り返しで、前回の宣言のレベルにも到達していない。

 これまでの歴史も忘れてはいけない。2000年と2007年には楽観的な見方が広がったが、1953年の休戦協定以外に、北朝鮮との取り決めが長く続いたことはない。現時点の外交上は必要な一歩だったと言えるが、それ以上のことは何もない。重要なのはトランプ大統領と金委員長による米朝首脳会談であり、今回は序章に過ぎない。

韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線上の板門店で記念植樹を行い、「平和と繁栄を植える」と刻まれた石碑の前でポーズを取る北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(左)と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領(2018年4月27日撮影)。(c)AFP / Korea Summit Press Pool

■ソンヒ・ファン(Sunghee Hwang、ジャーナリスト)

 過去2回の南北首脳会談は実体が何もない結果に終わったことを考え、私は今回の会談に対するハードルを非常に低く設定していた。だから結果に失望したわけでも、感心させられたわけでもなかった。共同宣言は、非常にフワフワしていると感じた。南北関係に関する項目は、かつて歴史的だと歓迎されながらもやがて忘れ去られた前回の合意に著しく類似している。

 今回の首脳会談で、金正恩委員長の姿が初めて生中継でテレビ放映された。これまでは北朝鮮の国営メディアでしか姿を見たことがなかった。冗談を言う金委員長を目にしたことは、なかなかではあった。

韓国ソウルで、大型スクリーンに映し出された北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の首脳会談の生放送を見る歩行者(2018年4月27日撮影)。(c)AFP / Jung Yeon-je

 だが、金委員長が自分自身を堅実な人物として見せ、韓国市民を魅了することに成功するとは想像していなかった。実の兄を毒殺し、叔父を処刑したといわれる人物だ。最近まで核戦争を起こすと脅していた人物だ。

 だが夕方になる頃には多くの韓国人が、金委員長を「キュート」で「いい人」そうだと思うようになっていた。首脳会談での目を引くシーンの数々と金委員長のイメージ作りの成功が相まって、多数の韓国人を味方にした。この会談によって、北朝鮮に対する韓国世論の支持が急上昇するとは想像していなかった。

 最初の握手には感動した。だが、会談の残りの部分はショーのように思え、感動は一気にしぼんだ。文大統領と金委員長が屋外に座ったり、会談の終わりにその日の出来事をスライドで見たりしているのを目にして気分はすっかりしらけた。

 最終的には、朝鮮半島に恒久平和が訪れることは確信している。ただ、現在の外交活動は全てがあまりにも性急に見えるため、それをもたらすものなのかどうか分からない。過去の経験を踏まえると、何か具体的なことを実現し、実体を生むにはプロセスのペースを落とす必要があると考える。

朝鮮半島を南北に隔てる軍事境界線上の板門店で行われた歴史的南北首脳会談で、共同宣言に署名した後、抱き合う北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(左)と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領(2018年4月27日撮影)。(c)AFP / Korea Summit Press Pool

■パク・チャンギョン(Park Chan-kyong、ジャーナリスト)

 1年前に文大統領が誕生した時、文大統領と金委員長はいずれ会談をするだろうと思ったが、こんなに早く実現するとは思わなかった。この会談は重要だった。なぜなら、敵対を和解に逆転させたからだ。金英哲(キム・ヨンチョル、King Yong Chol)朝鮮労働党中央委員会副委員長は、韓国代表団に言っていた。「天国での出来事は、まばたきする一瞬のうちにひっくり返される。まるで手のひらを返すように」

 私を含め多くの韓国人にとって、金委員長が文大統領の手を取り、南北を隔てるコンクリートブロックをまたいで北へ入り、また戻って来た瞬間がクライマックスだった。私にとってこれは消すことのできないイメージ、新たな歴史の幕開けの象徴だ。

 だが、南北和解はいずれにせよ、トランプ大統領と金委員長の米朝首脳会談で何が起きるかにかかっている。私はどちらかというと楽観的だ。金正恩委員長は二度と自国民を飢えさせないという約束に誠実であろうと努力しているようにみえる。韓国には、米国との合意を目指し努力する金委員長を強力に支える人々がいる。そして米国は中東でさまざまな問題を抱えており、安全保障上の危機をもう一つ抱える余裕はない。

韓国の板門店で、南北首脳会談に向かうため朝鮮半島を南北に隔てる軍事境界線上を越えて韓国に入った北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(左)と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領(2018年4月27日撮影)。(c)AFP / Korea Summit Press Pool

■イェリム・リ(Yelim Lee、ビデオジャーナリスト)

 あの日、首脳会談が進むにつれ、私の友だちの多くはひどく感動していた。中には見ていて涙が出たと言う人さえいた。

 文大統領と手を取り合う金委員長の姿を生放送で見ることができただけでも歴史的だった。自分たちのスライドを見ながら手を握っている2人の姿は面白かったが、気まずさも感じた。誰かの結婚式の陳腐な光景のようだった。

 いつの日か、南北コリアが統一されることを心から願っている。だが、今回の首脳会談で最終段階のスタートにようやくたどり着いたという見方にはいまだ懐疑的だ。今後どのように展開していくかを予測するには尚早だ。

朝鮮半島を南北に隔てる軍事境界線上の板門店に立つ、韓国軍兵士(前方)と北朝鮮軍兵士(後方、2018年4月26日)。(c)AFP / Korea Summit Press Pool

このコラムはソウル支局のセバスチャン・ベルガー支局長が、ソウルを拠点とするジャーナリストのソンヒ・ファン氏とパク・チャンギョン氏、ソウルを拠点とするビデオジャーナリスト、イェリム・リ氏と共同で執筆し、2018年5月24日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。