【6月3日 AFP】幼い頃に親を亡くした3歳のクマ、パトリック(Patrick)は、用心深く訪問者を見ている。身をかがめて爪をなめ、鼻息を立てる。これはクマにとって赤ちゃんの指しゃぶりと同じだ。

「ストレスを感じた時は、この行動が彼を落ち着かせる」と、ギリシャ北部のクマなどの保護施設「アルクトロス(Arcturos)」で世話をするメリーナ・アブゲリノー(Melina Avgerinou)さんは説明した。

 アテネから北西に約600キロ離れたビツィ山(Mount Vitsi)の中腹のニムファイオ(Nymfaio)に、アルクトロスはある。パトリックは、ここで保護されている多くのクマたちと同じような境遇にあった。

 パトリックは生後1か月に満たない頃、ギリシャとアルバニアの国境付近をさまよっているところを発見された。母グマは密猟者に殺されたとみられている。あまりに幼く、野生で生きていくすべを身に付けていなかったため、人の助けがなければ生き延びる方法を学ぶことはできなかった。アルクトロスはパトリックが1歳になったとき野生に戻したが、1か月余りたつとパトリックはのんびり歩きながら戻って来た。

「人を恐れることを学ばなかったため、自然は安全な場所ではなくなってしまった。一生ここで過ごすだろう」と、アブゲリノーさんは語った。

 パトリックのように、ここでは他のクマも心と体に傷を負っている。

 3歳のウスコ(Usko)は、赤ちゃんの時にマケドニアで発見された。腰から下がまひしていたが、二輪車を作ってあげると施設内の平らな場所を動き回れるようになった。アルクトロスの職員はウスコの生きる意欲に驚かされた。

「飼育下に置かれた(野生の)クマについては、バルカン半島(Balkans)を中心に問題が多い。法整備がまだ不十分なアルバニア(やマケドニア)は最大の問題を抱えている」「そのため、保護施設を必要としているクマはまだいる。バルカン半島や(そのほか)欧州にも保護施設はあるが、大抵は満員状態だ」と、アブゲリノーさんは話した。

 アルクトロスは1992年に設立され、主にバルカン半島のクマやオオカミを保護している。ニムファイオとアグラピディア(Agrapidia)の村の区切られた場所に、20頭以上のクマと7匹のオオカミが別々に暮らしている。ここにいる動物のほとんどは、壁飾りなどのために入手したバルカン半島の密猟者、収集家、飲食店の経営者らから救出された。

 アルクトロスによると、1頭当たりの年間飼育費はクマが1万5000ユーロ(約190万円)、オオカミが1万ユーロ(約130万円)に上る。(c)AFP/John HADOULIS