【5月29日 AFP】ロシアの首都モスクワのトレチャコフ美術館(Tretyakov Gallery)で25日、帝政ロシア君主のイワン雷帝(Ivan the Terrible)を描いた19世紀の名画に来場者の男が激しい損傷を与える事件が発生した。これを受けて文化省は28日、容疑者に対し可能な限りの厳罰を科すよう求めた。

 被害に遭ったのは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍した画家イリヤ・レーピン(Ilya Repin)が、16世紀に在位したイワン雷帝が息子を殺害する様子を描いた作品。

 警察は25日、防護ガラスを金属棒で破壊し、作品の3か所に損傷を与えた建設作業員のイゴール・ポドポリン(Igor Podporin)容疑者(37)を逮捕。現地メディアによると、ポドポリン容疑者は「歴史的理由」に基づき犯行に及び、後に警察に対し、犯行前にウオッカを1杯飲んでいたと供述したという。

 美術館は作品の損傷の様子を示す写真を公開。大きな3つの傷がイワン雷帝の死にゆく息子の上に認められるものの、この絵画で最も印象的な部分とされるイワン雷帝の顔と両手は無傷だという。レーピン作品の展示室から本作が撤去されたのは、戦火から守るため避難措置が取られた第2次世界大戦(World War II)以降初めて。

 現行法では、この種の犯罪に科される最高刑は禁錮3年だが、文化省副大臣は「この絵画の価値と比較すれば、(禁錮)3年など無に等しい」という見方を示し、容疑者に「可能な限りの厳罰」が下されるよう求めると述べた。

 また美術館で保存修復を統括する主任研究員は、「芸術作品と史実の区別がつかない」ロシア人が増えていることに懸念を示し、「これらの混同はすなわち、あらゆる芸術作品が(暴力行為の)犠牲になりかねないことを意味する」と警鐘を鳴らした。(c)AFP/Ola CICHOWLAS