■新鮮な食材に三つ星シェフの料理

 4月、春の登山シーズンの始めに約2500頭のヤクが移動すると、岩だらけの氷河は2か月間、世界で最も高地に位置する都市に変わる。

 テントの中にはじゅうたんが敷かれ、造花の花束が飾られている。凍えるような寒さの屋外から帰ると、太陽光発電を使った温水シャワーが一時の休息を与えてくれる。

 毎日ヘリコプターの一団が、ベースキャンプにいる約1500人のために新鮮な食料を運んでくる。高地での生活から少し離れたい登山者はヘリに乗せてもらってカトマンズの街まで行き、一息ついてリラックスしてから、エベレスト挑戦に舞い戻ることさえできる。

 登山ツアー会社アルパイン・アセンツ(Alpine Ascents)のキャンプでは、朝食にドリップでいれたばかりのトルココーヒーが出される。「高度なのでカプチーノメーカーは使えない」と、同社のゴードン・ヤノー(Gordon Janow)氏は語った。

 別の登山ツアー会社、セブン・サミット・トレック(Seven Summit Treks)のキャンプでは、高度に順応するために山でランニングして来た登山者を、焼きたてのシナモンロールの香りが出迎える。

 ニュージーランドの登山ツアー会社アドベンチャー・コンサルタンツ(Adventure Consultants)では、フランスのレストランガイド「ミシュラン(Michelin)」の三つ星を獲得し、各国大使も通うレストランに勤めていたシェフが新鮮なサラダを提供している。

「(登山者は)シンプルな食べ物を好むようだ。もちろん都会や普通の生活からかけ離れている場所だから、ベーシックなサラダや新鮮な野菜がみんなうれしいようだ」と、シェフのジェームズ・ペリー(James Perry)氏は述べた。登山者と各国大使ではどちらが難しい客かと聞くと、「好みはそれぞれなので」と如才なく答えた。