【5月25日 AFP】米フロリダ州マイアミ(Miami)で新しくビーチライフを始めるにあたり、同僚たちがアドバイスしてくれたように、「死ぬほど退屈なくらいダラダラする」のも悪くないと思っていた。これまで7年間、戦争、イスラムの武装勢力や自然災害を取材してきたのだから、これ以上命を危険にさらす冒険は必要ないと、みんな口をそろえて言った。

 なのになぜ、こんなことになったのだろう?到着してから1か月も経たないうちに、溶岩を吐き出す怒れる火山の前に再び立っている。

 すべては、ある月曜日の朝、上司が「ハワイ」という件名の電子メールを送ってきたことから始まった。

キラウエア火山山頂の溶岩湖(2018年5月6日撮影)。(c)AFP / HO / USGS

 

「出来るだけ早く行ける?」と上司は尋ねてきた。私は迷わずにノートパソコンを開き、航空券を予約し、荷物を詰め、その日の夜中には空港に向かい、15時間のフライトに乗った。

 ほんの数か月前まで、私は7年間過ごしたインドネシアで最後の「大きな」仕事をしていた。バリ(Bali)島のアグン山(Mount Agung)噴火の取材だった。世界有数の観光地である島で火山が何度も噴火し、10万人が避難した。取材に入って最初の3日間は一睡もできなかった。地面が揺れ続け、30分置きぐらいにベッドを上下に揺すぶった。慣れるのは簡単ではなかった。とりわけ、「立ち入り禁止区域」のちょうど境界線上にあり観光客が全員いなくなったホテルに泊まっていたのだから。

2017年11月30日のアグン山。(c)AFP / Juni Kriswanto

 

 それ以前には2013年、北スマトラ州のさらに激しい壮大なシナブン山(Mount Sinabung)の噴火を取材したことがあった。

 この時は、火砕流の洗礼を受けたことを覚えている。ビデオカメラを構えたとたん、火砕流が高速で私をめがけて一直線に向かってきたのだ。幸運なことに、火砕流は途中で止まった。

 このように火山噴火の取材の経験を積んでいたので、ハワイで待ち受けていることにも十分な準備ができていると感じていた。「今や、わが社の火山専門家」という冗談を、上司たちと電子メールで交わしていた。

ハワイ島のレイラニ・エステーツで、亀裂から噴き出す溶岩を見る男性(2018年5月4日撮影)。(c)AFP PHOTO / FREDERIC J. BROWN

 

 私はビッグアイランド(Big Island、ハワイ島の通称)に降り立った。ハワイで最も大きな島で、ハワイ諸島の中で最も活発な火山であるキラウエア(Kilauea)はこの島にある。私は「人びとの物語」を探すことを最優先にした。

 AFPはそれまでにすでに、アメリカ地質調査所(USGS)やその他政府機関、地元メディアから壮大な噴火の写真の数々を手に入れていた。だが、直接影響を受けた地元の人たちの物語がなかった。

 

ハワイ島のレイラニ・エステーツで、荷物を運び出すために順番を待つ、数日前に緊急避難した住民たち(2018年5月7日撮影)。(c)AFP PHOTO / FREDERIC J. BROWN

 

 レンタカーに飛び乗り、火山に向かって一直線に走った。30分後、ヒロ国際空港の真南にある最初の避難センターに着いた。近くでは警察や軍がバリケードを築いていた。

 このような状況で取材をする時、常に細心の注意が必要となる。基本的にジャーナリストは、全てを失ったばかりの人たちの所へ行き、どのように感じているか聞かなければいけない。「一体全体どんな気分だと思う、ばか野郎!」という返事が返ってくるだろうといつも予想している。

 

ハワイ島のレイラニ・エステーツで、道に流れ出る溶岩流(2018年5月6日撮影)。(c)AFP / HO/USGS

 

 だがこれまで、そのような反応には出会ったことがない。その代わり、このような状況では国籍を問わずどの人も温かく歓迎してくれる。お互いの距離が近くなり、メディアは話すきっかけとなり、それまで心の中に閉じ込めていた悲しみやフラストレーションなどの感情を表す手段となる。このような時、ジャーナリストは人々の話を聞く精神科医になったようなものだと思いたくなる。

 白髪交じりのひげを生やした年配の男性にインタビューをした。厳しそうな見た目をしていたが、突然の避難で猫たちを残してきてしまったと話すと泣き出した。

 6日間の取材の最終日になって、「安全で平和な」マイアミに戻るフライトの数時間前、人生で最大量のアドレナリンが分泌されたような出来事を経験した。

 私は、その日の朝に教会の駐車場で行われた報道陣と州兵のミーティングで出会ったビデオカメラと写真の記者たちの小さいグループと一緒だった。一夜にして「亀裂16」と呼ばれる新たな亀裂ができたという噂を聞いた。地元のカメラマンがその場所のGPS座標を持っていた。そこで、私たちは遠くの住宅地まで数マイル(約2~3キロ)歩くことにした。

 そこに着いたら何を見られるのか見当もつかなかった。カメラ道具一式を持って有刺鉄線のフェンスや私有地を越えなければいけなかったので、大量の汗をかいていた。

 

ハワイ島のレイラニ・エステーツで、亀裂から噴き出す溶岩(2018年5月4日撮影)。(c)AFP PHOTO / FREDERIC J. BROWN

 

 最初に衝撃を受けたのは音だった。正確に言葉であらわすことは難しいが、低音の激しい振動だった。作業員や機械が土の塊の間で忙しそうに動き回り、エンジンがごう音を立てている工事現場の前に立っているようだった。音の波に打たれているように感じた。絶え間なく泡が沸き立つ音が聞こえ、それが徐々に大きくなっていった。そしてついに、離れたところの木々の合間に、赤い泡と炎が20~30メートルの高さまで舞い上がっているのが見えた。

 ここが探していた場所だ。まさにここで地面が裂け、溶岩が吐き出されている。この現象は正式には「亀裂」と呼ばれる。キラウエア火山は1983年から継続的に噴火しているが、私たちが見つけた亀裂は、5月初めの噴火の影響で地面が裂けてできた16か所目のものだった。

■ただ見つめていたかった

 ついに亀裂の地点までたどり着いた時、焦熱地獄が目の前に広がっていた。その光景はあまりにも魅力的で、カメラを取り出して撮影を始めるのが難しいほどだった。ただただそこに立って見つめていたかった。

 まるで生きているようで、エネルギーが非常に強かった。これが、地球の中心部から直で出てきているのだ。炎、泡、溶岩流、高温で光る岩はすべてその信じられない力で空中に放たれた。圧倒的な熱、音、振動に圧倒された。そこに立って、全てを吸収したかった。

 駄目だ!映像を撮って、急いで逃げなくては。心を奪われる光景だが、全くもって安全ではないのだから。ズームを使い、ピントを合わせ、「録画」ボタンを押して、仕事を終えると急いでその場を去った。約15分の体験だったが、映像を自分のノートパソコンにダウンロードすると、「これまでに撮影した中で一番信じられないような光景だった」ということしか考えられなかった。

 私はイタリアのカタニーア(Catania)の街に生まれた。ヨーロッパ最大の活火山エトナ火山(Mount Etna)の麓だ。生まれた後それほど長く住んでいたわけではないが、父親を訪ねるたびに遠くに赤々とした山頂が見えたのを覚えている。私も火山の子孫だ、と思いたい。だからこそAFPで今、「火山の専門家」となっているのだ!

キラウエア火山を背景にゴルフをプレーする人たち(2018年5月15日撮影)。(c)AFP/ Getty Images/Mario Tama

このコラムは米マイアミを拠点とするビデオジャーナリスト、ジャンリゴ・マーレッタ(Gianrigo Marletta)氏が執筆し、2018年5月17日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。