【6月11日 AFP】サッカーW杯(World Cup)前の数週間は、バングラデシュの労働者にとってかき入れ時だ。この時期、母国の国旗に関心を示す人は誰もいない。もうけにつながるのは、リオネル・メッシ(Lionel Messi)のアルゼンチン、あるいはネイマール(Neymar da Silva Santos Junior)のブラジルのフラッグの方だ。

 バングラデシュの首都ダッカのメラジナガール(Merajnagar)地区には、熱気と汗のにおいが充満した小さな染織用の作業場が無数にあり、家主たちが国旗やペナントをせっせと作っては、W杯ロシア大会(2018 World Cup)を前にした国内市場に送り出している。40歳のカマル・オサン(Kamal Hossain)さんもその一人。オサンさんは印刷用の木版から顔を上げようともせず、「ここ2か月は働き詰めさ。睡眠時間が2時間の日もある」と話す。

 バングラデシュは伝統的にクリケットの国だが、それでも4年に1回、FIFAランキング211の国・地域中194位のこの国では、1億6000万の国民がW杯に夢中になる。注文が国中から舞い込む中、メラジナガールの各家庭は即席の染織工場と化し、開幕まで木版からは国旗が絶えず生み出されて、通りにはアルゼンチンやブラジルの旗が踊る。オサンさんは「来る日も来る日もフラッグ作りだ。きょうだけでアルゼンチンのペナントを1万枚以上は刷ったよ」と話している。

 W杯が近づくと、バングラデシュではファンたちが国旗を振って行進し、お気に入りのチームを応援する。5月中旬には、北西部の町で長さ200メートルのアルゼンチン国旗をたなびかせて行進するサポーターの動画がSNSで話題になった。

 世界最貧国に位置づけられるバングラデシュで、W杯が初めて生中継されたのは1982年のスペイン大会。しかし、サッカーが確固たる人気を獲得し、国民に新しいひいきのチームが生まれるきっかけになったのは、ディエゴ・マラドーナ(Diego Maradona)がほぼ一人でアルゼンチンにトロフィーをもたらした1986年のメキシコ大会だった。