■貧しい労働者の貴重な収入源に

 近隣の地区から国旗を仕入れにやってきた男性は「アルゼンチンの人気はやっぱり根強いね。マラドーナはいなくなったけど、メッシという新たなスターがいる」と話す。先週は500枚の国旗を仕入れ、たんまり稼いだので追加で500枚が必要になったのだそうだ。男性も本大会ではアルゼンチンに声援を送るという。

 工場の社長を務める別の33歳の男性は、「W杯フィーバーが開幕の何か月も前にやってくる」この国で、フラッグが何十万枚も売れることを期待している。社長は「2014年には8万枚以上が売れたけど、ほとんどがW杯期間中か、開幕の数日前のことだった。今回は今のところ巨大フラッグが1日に2000~2500枚、ペナントが1万枚といった感じだけど、W杯まではまだ何週間もある」とうれしそうに語る。

 注文は、やはりメッシのアルゼンチンとネイマールのブラジルが断トツで多いらしく、「15メートルのアルゼンチン国旗を作ってくれと依頼されたこともある。バングラデシュでも、この2チームのファンが一番多いね。他にはドイツ、スペイン、ポルトガルも人気だ」そうだ。

 25人の作業員を抱えるこの社長は、地区では2000人ほどが旗作りにいそしんでいると話す。バングラデシュでは、全国4500の工場で約400万人が衣料品業界に従事し、数十億ドル相当の衣料を世界中の小売り大手に提供している。

 専門家と人権団体によれば、業界の労働者の待遇は改善しているものの、長時間労働や過酷な労働環境、悲しいほどの低賃金はまだまだ残っているという。そんな人たちにとって、フラッグのブームは絶好の追加収入になる。

 先ほどの社長の作業場で働く若い夫婦も、そうした労働者だ。夫によると「ここでは平均で日当3000タカ(約4000円)がもらえます。衣料品工場だとひと月丸々働いても70ドル(約7600円)くらいで、世界でも最低水準です」とのこと。妻は「フラッグ熱が、この先何か月も続いてくれたらいいのにと思います」と言ってほほ笑んだ。(c)AFP/Shafiqul ALAM