【5月11日 AFP】10年前に発生した中国・四川大地震で、がれきの下敷きになりがらも生き延びて国民的英雄となったブタの話は、心温まる物語のはずだった。

 だが、地元公安当局の考えは違った。3人の私服の公安職員が、ブタが飼われている博物館で取材していたAFPの記者たちの仕事を中断させ、博物館の外に連れ出したのだ。

 公安当局の厳しい取り締まりは、10年経った今も四川大地震が敏感な話題であることを示している。地震による死者、行方不明者は8万7000人で、この中には手抜き工事が原因と考えられる校舎の崩壊で亡くなった数千人の子どもが含まれている。

「猪堅強(Zhu Jianqiang、強いブタの意)」の名で有名になったブタは、2008年5月12日に発生したマグニチュード7.9の地震でがれきの下敷きになったものの、36日後に救出された。助け出されるまでは雨水と木炭を食べてしのいだ。ブタは一躍、国民的英雄、復興の象徴となった。

 ブタは建川博物館(Jianchuan Museum)に売られた。逆境を乗り越えた象徴として、死ぬまで博物館が面倒を見ることになっている。

■不屈の生命力

 四川大地震は非常に敏感な側面もあるが、当局は復興や生存者の希望にあふれる物語を書きたい記者らを温かく歓迎してきた。

 だが中国では、どこが踏み越えてはいけない一線かの判断が難しい。さらに、国民的英雄の名誉を傷つけることは違法だ。有名なブタでさえ、敏感なテーマとなり得る。

 四川大地震の10周年が近づき、このブタの取材を希望する外国人記者は、県当局への届け出が求められた。

 最近の取材では、メディア担当の職員たちが博物館のビジターセンターで国内外の記者を出迎え、小さなトラムでブタの飼育舎に案内した。

 ブタはガラスで仕切られた囲いの中で、巨体を干し草の上に横たえていた。地震の時に両前足を負傷し、立っているのが難しくなっている。中国メディアの報道によると、ブタは太り過ぎてからは後ろ足しか使えず、命に関わる問題となっていた。だが、ダイエットと不屈の生命力のおかげで、回復した。

 既に11歳という老齢(人間でいうと80歳を超えている)に達し、1日20時間以上は寝ている。1日2回の食事のうち、1回目の午後になると起き上がる。

 AFPの記者が博物館の来場者と話そうとすると、3人の私服公安職員がインタビューを止めた。四川大地震の10周年についてどのような記事を書くつもりかと質問をはじめ、記者を博物館の外に連れ出した。

 記者と公安職員がもめていると、両親と博物館を訪れていた男性がブタを見つけて、「中国の強さの象徴だ」と言った。(c)AFP/ Ben Dooley