【5月9日 AFP】2015年に英中仏独ロと共に結んだイラン核合意から米国が離脱することを表明したドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領の発表は、国際協議における米国の信頼性を大きく傷つけるとともに、北朝鮮の兵器開発をめぐる合意を目指す努力を困難にすると専門家らが予測している。

 北朝鮮の最高指導者である金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong Un)朝鮮労働党委員長とトランプ大統領の歴史的な首脳会談は数週間後に迫っている。

 そうした中、トランプ氏は8日、イラン核合意を「悲惨な」内容だとあざけり、米国にとって「恥辱」だと述べて自国の離脱を表明した。

 バラク・オバマ(Barack Obama)前米政権下で国務副長官を務めたアントニー・ブリンケン(Antony Blinken)氏は、トランプ政権の動きについて「北朝鮮との間で合意に至ることをよりいっそう難しくした」と語る。「他の当事者が順守している合意を勝手に破るトランプ大統領のどんな約束を金氏が信じるというのだろう」

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)のビピン・ナラン(Vipin Narang)教授(政治学)はこう補足する。「今日という日は、世界各地で強烈なリマインダーとなった。すなわち合意というものは可逆的で、その有効期限が切れる日があり得る一方で、核兵器は一生涯の保険を提供し得るということだ」

 朝鮮戦争(1950-53年)での戦闘がやんだのは平和協定ではなく休戦協定であるため、国際法上、北朝鮮は今も戦争状態にあり、米国の侵略から自衛するためとして北朝鮮政府は長年、核兵器の必要性を主張してきた。

 北朝鮮の非核化について、新たに米大統領補佐官(国家安全保障担当)に就任したジョン・ボルトン(John Bolton)氏は2週間前、「我々が非常に強く思い描いているのは、リビアモデルだ」と語った。

 リビアの故ムアマル・カダフィ(Moamer Kadhafi)大佐は2000年代初頭に核兵器開発を放棄することに合意。しかしカダフィ政権は後に欧米諸国の空爆に支援を受けた反体制派によって倒され、カダフィ大佐は殺害された。

 北朝鮮は核兵器の必要性の証拠として、よくこのカダフィ大佐の例や、米軍主導の侵攻によって倒されたイラクの故サダム・フセイン(Saddam Hussein)大統領の例を引き合いに出している。

 米中央情報局(CIA)元長官のジョン・ブレナン(John Brennan)氏は、トランプ大統領の「狂気」が「米国のコミットメントに対する国際的信頼をむしばみ、わが国の最も近しい同盟国たちを遠ざけ、イランのタカ派を勢いづけ、北朝鮮に核兵器を維持するさらなる理由を与えてしまった」と批判した。

■安全の保証

 トランプ大統領の一方的な動きの性質は、韓国大統領府の高官たちも不安にさせるだろう。今回、イラン核合意がたどった運命は、トランプ氏が同盟国である韓国の要請を将来的にはねつける可能性を示唆するものだ。

 専門家らは、金氏が繰り返し中国を訪問したことは、北朝鮮が長年の外交的な保護者で貿易相手国・援助提供国である中国にサポートを求めていることの証だと指摘している。

 金正恩氏が権力の座に就いてから6年、中国との関係は悪化し、最高指導者としての訪中も果たしていなかった。ところが今週の金氏と習近平(Xi Jinping)国家主席の中朝首脳会談は、この1か月あまりで2回目だ。

 韓国・東国大学(Dongguk University)の高有煥(Koh Yu-Hwan)教授はAFPに対し、「米国は政権が変わればいつでもどんな合意からも離脱するリスクがあることを、北朝鮮は十分に認識している」と語った。「そうした事態に対する防衛手段として金正恩氏は、米国との交渉に入る前に、中国からより確固とした安全の保証を引き出すために2回も習近平氏と会ったのだ」

 さらに北朝鮮はより広い世界に向かって保証を求めたがっていると高氏は言う。中国国営の新華社(Xinhua)通信によると、金氏は習氏に対し「関係当事国」は「敵対的な政策を放棄し、北朝鮮に対する安全保障上の脅威を取り除くべきだ」と語ったとされる。この発言は「米国が合意から一方的に手を引かないように、国際社会の関与を北朝鮮が求めているということだ」と高氏は述べた。(c)AFP