■世界の犬種へ

 山口さんの犬は1匹約20万円で販売されている。米国、ロシア、中国の顧客が大部分を占め、他にフランス、エジプト、クウェート、インドネシアにも顧客がいる。海外まで出向くのは、飼い主が子犬のために適切な住環境を用意しているかどうか確認するためだ。「精神的な感応性がいいので、そこが一番の魅力」と、山口さん。「思っているだけで通じる部分がある。それに忠実です」

 秋田犬といえば1920年代、東京の渋谷駅の前で亡くなった飼い主の帰りを毎日待ち続けたという「忠犬ハチ公」のエピソードが有名だ。ハチ公像は今や、渋谷駅前の他にも都内各地にある。

 さらにハチ公の物語は2009年に米ハリウッドで『HACHI 約束の犬(Hachiko: A Dog's Story)』として映画化され、リチャード・ギアさんが飼い主の教授を演じた。川北さんによると「リチャード・ギアのHACHIという映画、あれで一気に人気になった」という。

 他にも有名な愛犬家たちが、秋田犬の海外での認知度を高めてきた。古くは聴覚と視覚に障害があった社会活動家ヘレン・ケラー(Helen Keller)が、米国に秋田犬を1匹連れて帰った。最近ではロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が、秋田県知事から秋田犬を贈呈された。

 川北さんによると、中国ではあまりの人気の高さに、偽の血統書をつけた「偽秋田犬」の販売を始めたペットショップもある。学生のころに夢中になって以来、30匹以上の秋田犬を飼った川北さんは「外国人が引かれるのはこの燃えるような赤だと思う」と説明した。

 山口さんは、海外で秋田犬のファンが増えていることを喜んでいるが、人気が一過性のものではないことを願っている。「人気が一時の流行で終わらないでほしい。ゆっくり長く、持続的になってほしい」

 山口さんは海外での人気が長く続くためにも、日本国内の飼い主が秋田犬を伝えていく「大きな責任を担っている」と指摘する。「原産国の責任は大きい。そこがだめになって犬が栄えるということはないと思う」

(c)AFP/Natsuko FUKUE