【4月27日 AFP】スペインの不動産バブル崩壊から約10年がたった今、マドリードやバルセロナといった大都市の中心部にある空きアパートが「ドラッグの巣窟」と化し、困惑する地元の住民らが捨て置かれた注射器や頻繁に起きるけんかに苦情を申し立てている。

「生きた心地がしない。外にいるより、うちにいる方が怖いんだもの」。会計士のベゴーニャ・セバスティアンさん(51)が住むビルは、マドリード中心部ラバピエス(Lavapies)地区で最初に、麻薬を買ったり使用したりする人が集まる「ナルコピソ」(ドラッグアパートの意)が出来たフラットの一つだ。

 ここ3年ほど前から、セバスティアンさんが住む下の階で麻薬密売人がハシシやコカインを売るようになった。元々は大きな借金を抱えた家族から、ある銀行が接収した部屋だった。2016年の半ばに彼女は無断居住者を退去させることに成功し、密売人に再び違法占拠されることがないよう、その部屋のドアをふさいだ。

 アパートの建物全体にはナンキンムシが住み着き、麻薬密売人が常時出入りしていた上に、無断居住者たちが暖房代わりに使っていたガスボンベが爆発を引き起こすのではないかと思うと、セバスティアンさんは満足に眠ることもできなかった。

 急こう配の細い道が密集し、移民が多い旧市街のラバピエスで増え続ける別のドラッグアパートの横を通り過ぎながら、「泣くしかないわ」とセバスティアンさんは語った。彼女はそれぞれのドラッグアパートの住所を暗記している。ドラッグアパートかどうか、外から見分ける方法も覚えた。大抵ドアが壊れていて、窓は段ボールで目隠しされている。

 同じマドリードの南部で労働者階級が住むプエンテ・デ・バジェカス(Puente de Vallecas)や、バルセロナ中心部のラバル(Raval)など、スペインの都市の他の地区でも近年、ドラッグアパートは爆発的に増えており、地元住民による抗議デモを誘発している。

 しかし一体、どれくらいの空きアパートが麻薬密売人に占拠されているのか、正確な数字を把握するのは難しい。国家警察によると2017年、マドリード都市圏では105軒のドラッグアパートを解散させ、314人を検挙した。北東部カタルーニャ(Catalonia)自治州の州警察は麻薬取引に関連し、今年に入ってから4月初めまでにフラット17軒を捜索し、34人を逮捕した。

 当局は、2008年まで約10年間続いた建設ブームが崩壊した後、経済が急激に衰退し、何万世帯という家族が立ち退きを迫られたことがドラッグアパートの台頭につながったと非難している。立ち退き後に空き家となったアパートの所有者は銀行や投資ファンドとなったが、多額の損失覚悟でなければ売却もできない状態で結果、資産価値が上がるのを待って空き家のまま放置されている状況だ。

 バルセロナ・ラバル地区の町内会で広報を担当するカルロスさんは、密売人を恐れて名字を明かさなかったが「通りはゾンビみたいな人間であふれている」と語った。「建物の階段には血や人糞、尿の臭いが染みついているし、注射器が転がっている」。カルロスさんの住む隣のビルは昨年10月まで、バルセロナの中心的な麻薬販売ポイントだった。

 警察やソーシャルワーカーによると麻薬の密売は、警察が取り締まりを強化している都市郊外の周縁地区から、都市中心部へ移行してきている。カタルーニャ薬物乱用防止連盟(Catalan Federation of Drug Addiction)の広報担当ジョゼップ・ロビラ(Josep Rovira)氏は「警察の圧力がどこにかかるかによって、取引も移動している」と述べている。(c)AFP/Adrien VICENTE