【4月21日 AFP】ケニアのマサイマラ(Maasai Mara)国立保護区のサバンナの背の高い草の間を生後5か月のブラッドハウンドのシャカリア(Shakaria)が飛び跳ねながら通り抜けていく。だがそのはしゃいだ様子は人間のにおいを追跡するよう命じられると直ちに鋭い決意に変わった。

 引きひもをぴんと張って訓練士を引っ張り、目には見えないにおいの道に沿って、草の合間に隠れた密猟者役のレンジャーを見つけるまで進んでいく。

 シャカリアは追跡犬部隊に加わるため米国の専門家から訓練を受けている5匹の子犬の中でトップの犬だ。追跡犬部隊は、タンザニアのセレンゲティ国立公園(Serengeti National Park)につながるケニア南部の広大なマサイマラ国立保護区の一部、マラ・トライアングル(Mara Triangle)で密猟と闘う中核部隊となっている。

 ここでは毎年100万頭を超えるウィルドビースト(ウシカモシカ)やその他数万匹の動物がタンザニアから国境を越えてケニアに移動し、観光客だけでなく格好の餌食を求める密猟者も引き寄せている。

■狙われる野生動物の肉

 追跡犬部隊の一員で地元マサイ族のレマ・ランガス(Lema Langas)さん(30)は、同国立公園で最大の問題は野生動物の肉の売買を目的とした密猟だと述べた。乾燥肉はウガンダやルワンダ、そしてさらに遠方へ輸出される。

「ここにはトムソンガゼル、インパラ、キリン、スイギュウそれに移動時期にはウィルドビーストがいて密猟者の格好の餌食になる」とランガスさんはAFPに語った。密猟者はワイヤで作ったわなを仕掛けたり、動物を谷に追い込んでなたで襲ったりする。わなにはゾウ、ライオンその他の「ビッグファイブ」(アフリカでの狩猟で大物とされる5種の動物。ゾウ、サイ、スイギュウ、ライオン、ヒョウ)もかかる。

 マラ・トライアングルに最初に2頭の追跡犬が導入されたのは2009年。現在その部隊は追跡犬4頭と、象牙と銃をマラ・トライアングルの入り口で嗅ぎ出す特別な訓練を受けた犬2頭を擁している。

 ブラッドハウンドの子犬たちを訓練しているのは、いずれも米国で数十年間にわたって脱獄した受刑者を捜索した経歴を持つ元警官のリンダ・ポーター(Linda Porter)さんと夫のジョン・ルーテンバーグ(John Lutenberg)さんだ。この2人が2009年に最初の追跡犬2頭を訓練してケニアに連れてきた。その子犬たちがケニアで生まれ「しかも進歩が非常に速い」とポーターさんはAFPに語った。

■防衛の第一線

 保護区全体の3分の1を占めるマラ・トライアングルは90年代後半には治安が非常に悪く密猟が横行していた。その後、保護区の管理は地元マサイ族も参加する官民共同の非営利組織(NPO)「マラ管理委員会(Mara Conservancy)」に移管された。

 犬部隊のおかげで日中の密猟は大幅に減った。夜間の密猟は熱探知カメラなどのテクノロジーを活用して追跡される。

 地元の監視組織や「民間のスパイ」などの活動により国境のケニア側での密猟は抑制された。ランガスさんによると、現在の密猟の大半はケニアとタンザニアの間の目には見えない国境で起きているという。

 ケニア、タンザニア両国の合意により、追跡犬を連れたレンジャーはセレンゲティ国立公園の奥深くまでパトロールできるようになった。密猟者はタンザニア当局者に引き渡される。

 スワヒリ語を話す日本人女性獣医師で犬部隊の発足に関わった滝田明日香(Asuka Takita)さんは「私たちはタンザニアからの防衛の第一線だ。密猟者がマラとケニア側に入るのを防いでいる」と語った。滝田さんによると過去18年で4000人以上の密猟者を捕らえたという。

■法律の厳格化で状況改善

 動物が移動する7月と8月にレンジャーが発見するわなは数千にも上る。ランガスさんは昨年は1日で511のわなを除去したこともあったと語った。

 滝田さんによると、ケニアで捕らえた密猟者を有罪にすることは長い間「非常に困難」だった。だがケニアが野生生物法を厳格化した2013年以降、状況は改善している。「終身刑や2000万シリング(約210万円)の罰金が抑止力になっている。多数の小規模密猟者に対する抑止力だ」と滝田さんは言う。

 象牙目的の密猟に注目が集まる一方、政府が任命した特別委員会の2014年の報告は、野生動物の肉を目的とする密猟の大半が見過ごされておりケニアでは「かつてない水準」になっていると警鐘を鳴らした。

 マラ地域から離れようとしていた車両から重量6トン、推定1万1000ドル(約120万円)相当の野生動物肉が見つかった事例もあった。報告書は「これは持続不可能な行為であり、多くの種の絶滅をもたらしかねない」としている。(c)AFP/Fran BLANDY