【4月5日 AFP】約137億年前の宇宙誕生時、ビッグバン(Big Bang)によって物質と反物質の粒子が対を成して生成された。物理学の通説ではそうなっている。

 だが、現在の宇宙で見ることができる、地球上の小さな昆虫から宇宙にある巨大な星までのあらゆるものは物質の粒子でできており、それと対を成す反粒子はどこにも見つからない。

 欧州にある巨大な地下素粒子実験施設の物理学者チームは4日、実験室内で作った反物質の粒子「反水素原子」の前例のない観測を通じて、この謎の解明に一歩近づいたとする研究結果を発表した。

 欧州合同原子核研究機構(CERN)の「ALPHA(Antihydrogen Laser Physics Apparatus)」実験チームのジェフリー・ハングスト(Jeffrey Hangst)氏は「われわれが探究しているのは、通常物質の水素と反物質の反水素が同じように振る舞うかどうか(を確かめること)だ」と話す。

 挙動にほんのわずかでも違いが見つかれば、物質と反物質の見かけ上の不均衡を説明する助けになるばかりか、宇宙を構成する基本素粒子とそれらを支配する力を記述する物理学の主流理論「標準模型(Standard Model)」が揺るがされる可能性がある。

 だが、ややがっかりなことに、今回の最新研究の「これまでで最も高精度の実験」でも、水素原子と反水素原子の挙動に違いは見つからなかった。

 目に見える宇宙の構成要素と挙動を記述する標準模型は、反物質の「消滅」を説明できない。

 ビッグバンでは、質量が同じで電荷が逆の粒子と反粒子のペアが生成されたと広く考えられており、粒子と反粒子が出会うとエネルギーだけを残して消える「対消滅」が起きるとされる。

 物理学では、ビッグバンの直後に物質と反物質が反応して崩壊する現象が実際に起きたと考えられている。そうであれば、現在の宇宙には残されたエネルギー以外は何もないはずだ。

 にもかかわらず、科学者らによると、人が見たり触れたりできる全てのものを作り出している通常物質が、宇宙の4.9%を構成しているという。他の物体に及ぼす重力の作用によってのみ検出される謎の物質「暗黒物質(ダークマター)」が宇宙の26.8%、ダークエネルギーが残りの68.3%を構成する。