【3月29日 AFP】スカンディナビア地域に生息するヒグマの雌は、子育てにより長い時間を費やすことで猟銃の弾丸から自分の身を守るすべを身に付けているとの研究結果が発表された。これは、子連れの母グマの狩猟が当該地域の法律で禁止されているのに適応した結果だという。

 英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に発表された今回の研究は、スカンディナビア地域のヒグマの繁殖戦略と生存に関するデータを22年間にわたり調査した国際研究チームの成果だ。

 論文の共同執筆者で、ノルウェー生命科学大学(NMBU)のヨン・スウェンソン(Jon Swenson)教授は「人間は今や、ヒグマが生きていく中での進化力の一つとなっている」と説明する。

 スウェーデンではヒグマの狩りが非常に盛んで特別な許可証なしで誰でも狩猟できるが、家族の群れのヒグマは法律で保護されている。こうした背景から「単独の雌ヒグマは子グマと一緒の雌に比べて狙われる確率が4倍高い」とスウェンソン教授は指摘する。

 調査期間中、研究者らは一部の雌グマが、自らの生存確率を高めるために子育ての方法を変化させていることに気が付いた。それは、いわばヒグマ版「人間の盾」といったものだった。

 調査の時点では、一部の母グマの子育て期間が1年半から2年半に延長されていた。スウェンソン教授によると「通常、子グマが母親について回る期間は1年半」で、1995年以前の調査では、子育て期間が延長された様子は見受けられなかったという。

■狩猟による変化

 だが過去20年間で、通常より1年長く母親と一緒に過ごす子グマが増えるにつれ、この傾向には変化が表れ始め、結果的に母グマと子グマ両方の生存確率が上昇することとなった。

「子グマと一緒にいる限り、母グマの安全は保たれる。こうした狩猟圧によって、子育て期間が1年半の雌と2年半の雌との割合に変化が生じた」ことが、今回の研究で明らかになった。

 2005年~2015年の期間に、通常より1年長く子育てする雌ヒグマの個体数は全体の7%から36%に増加した。

 子育て期間の延長はライフサイクルの進行を遅らせる作用があり、ヒグマの繁殖確率を低下させた。雌が子離れするまで繁殖しないためで、子育て期間が短いほど繁殖の機会は増えるのだ。しかし、今回の研究では、母子両方の生存確率の上昇で繁殖率低下の損失分が相殺されることも分かった。

 1930年代、スウェーデンのヒグマの生息数はわずか約130頭だったが、一連の保護措置の導入後は個体数が急速に回復し、2013年までに約2800頭にまで達した。(c)AFP/Hazel WARD