【3月16日 AFPBB News】動かなくなった電車や「けが」をしたぬいぐるみなおします──。壊れたおもちゃを原則無料で修理するボランティア団体「日本おもちゃ病院協会」の活動が全国に広がっている。捨てたり、買い替えたりするのではなく、思い出ごと生き返らせる「おもちゃドクター」。現在1500人以上が全国各地で活躍している。

 東京・国分寺の「国分寺おもちゃ病院」の院長・角文喜(Fumiyoshi Sumi)さん(70)は、自宅で開院して今年で17年目。全国各地から宅配でも修理を受け付け、これまで治療したおもちゃは3800個以上、治癒率は約95%だという。月に1回など開催日が決まっているおもちゃ病院も多い中、「休院日はありません。私がいるときはいつでも」と笑う角さん。診察室は、至るところに工具が並び、時折回復したおもちゃの愉快な音が鳴り響く。

角文喜さんの治療を終え、動くようになった猫の人形(2018年3月9日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi

 この日も午前中から救急の「患者」が戸をたたいた。親類の子どもから贈られた猫のおもちゃを抱えて訪れたのは、都内在住の小柳さん夫妻(60代)。電池のフタ部分のネジ山が潰れ、電池交換ができなくなったという。問診票に記入し、治療を見守る様子は、まさに病院の診察室。

 角さんの治療が無事に終わると、元気に動き回るおもちゃに、夫婦は「よかったね、元気でこれからも遊べるね」と笑顔で話しかけた。「今は簡単に捨てたり買い替えたりするが、ものを大切にすることの必要性を感じる」と話す夫に、妻も「同じおもちゃでも思い入れは違う。家族の一員をなおしてもらって本当に有り難い」と続ける。

 元々養護教諭だった角さんがおもちゃドクターになったきっかけは、障害児に向けた教材作り。費用を抑えようと、壊れたおもちゃを修理して使用していた。その際におもちゃ病院の存在を知り、退職後に工学系の専門学校に通い、自宅の一角で開院。今は長年の技術や経験を生かし、重い障害がある子どものために、簡単に操作できるおもちゃ用スイッチを開発するなどの支援活動も行う。

おもちゃドクター養成講座に集まった熱心な参加者たち(2018年3月9日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi

 日本おもちゃ病院協会によると、「おもちゃドクター」の人数は年々増加。1996年にスタートした「おもちゃドクター養成講座」も定員に達する人気ぶりだ。講座では故障の原因の理解から、分解組み立ての実習、病院開設のノウハウなどを3日間で学び、修了後には近隣のおもちゃ病院でのインターンとして経験を積むためのサポートも。定年退職を経て、趣味を生かそうと参加する人も多い。

「おもちゃ病院の需要は潜在的にはもっとあるが、活動を知らずに諦めて捨ててしまっている人も多いはず。おもちゃは修理すればなおると周知していきたい」と会長の三浦康夫(Yasuo Miura)さん。

 角さんの診療室には今日も、ロボットから電子楽器まで診療を待つ「患者」たちがずらり。「全く動かなかったおもちゃが息を吹き返して元通りに動くようになったと分かると楽しい」。治療を受けたおもちゃたちは、まるで回復を喜ぶかのように愉快な音を立て、思い出とともに全国の持ち主の元へ帰っていく。(c)AFPBB News/Hiromi Tanoue 

診察台の前に座る「国分寺おもちゃ病院」院長の角文喜さん(2018年3月9日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi