【3月2日 AFPBB News】和傘の下で次々と変化する面や、ひらひらと華麗に舞う和紙のチョウ──。国の無形文化財にも指定された日本伝統の奇術「手妻(Tezuma)」を演じるのは、手妻師の藤山大樹(Taiju Fujiyama)さん(30)。「マジックに費やした時間は人生の半分」と笑う。

 手妻師として独立して約5年が経った今、舞台だけでなく、企業や個人のパーティーなど、様々な場所へと赴き、「手妻」の魅力を伝えている。都内で開かれたある宴席では、自ら考案した変面の芸に続き、何本もの針をのみこみ糸を通す芸などを披露し、観客を沸かせた。

 この日初めて手妻を鑑賞した都内在住の小森祐子(Yuko Komori)さん(57)は「びっくりして、感激した。昔の伝統を守ることは大事」と驚きを隠さない。以前にも手妻を見たことがあるという神奈川県在住の七情了正(Ryosho Shichijo)さん(86)も、「何度見ても(仕掛けが)分からない。こんな素晴らしい芸能が日本に残っているとは」と口をそろえる。

東京都中央区で公演する手妻師の藤山大樹さん(2018年1月18日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi

■「世界観」を見せる古典奇術

 西洋マジックに対する日本伝統奇術「手妻」。諸説あるが、語源は「手を稲妻のように素早く動かす」ことだという。「手妻という単語が出てきたのは約300年前。当時の手妻には幻灯機(写し絵の映写器)なども含まれていたため、現代に通用する芸は20〜30程度」と藤山さん。

 中でも代表作は、1枚の紙を「チョウ」に見立てた演目。扇で和紙のチョウを操るシンプルな芸だが、誕生から死を迎え、子どもが巣立っていくという「チョウの一生」を表現している。

 このような「見立て」を特徴とする手妻にとって、重要なのはトリックそのものよりも、世界観の表現だ。「傘が1本出て終わるのが西洋のマジックだが、その傘を肩にかけ、町娘になってみせるのが手妻」であり、「奥を追求した日本独特の考え方が、不思議さの中に織り込まれている」と藤山さんはその魅力を語る。

東京都中央区で公演する手妻師の藤山大樹さん(2018年1月18日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi

■時代とともに生きる「古典」へ

 藤山さんがマジックを学び始めたのは、高校生の時。テレビで見た種明かしに「こんなに簡単に人を楽しませることができるのか」と驚き、トランプを買いに走った。その後大学に進学し、サークルでステージ上の演技を学ぶなかで、縁あって手妻師の藤山新太郎(Shintaro Fujiyama)さん(63)に出会う。

「私のところで修行してみるかと話すと、目を輝かせた。そういう人は多いが、卒業の際に心変わりする人も多い」と師匠の新太郎さん。だが、藤山さんは、周りが就職活動を始める中、「若いうちに、やれることをやってみたい」とプロを目指すことを決める。大学卒業と同時に弟子入りし、約4年間の修行を積んだ。

 藤山流では、弟子入り後の半年間は、手妻の手ほどきを受けることはできない。その間、日本舞踊や太鼓など「和」の芸をたたき込まれる。手妻には立ち方や見せ方などの「型」が存在し、所作にも芸能の素養が求められるからだ。「和の芸能を見慣れた人であれば、舞台袖から出てきて、中央でお辞儀をする間に、(演者が)普段和と接しているかどうかが分かる」と藤山さん。

 一方で、修行中には手妻と同時に西洋のマジックも学ぶ。「両方の知識を得て、融合させることで、現代に合う作品ができる」という考えからだ。新太郎さんは、「私の手妻も、江戸時代のままではなく、私流に変えたもの。古典は少しずつ修正していくものであり、これからは彼自身で構築し、今を生きる方法を考えてもらいたい」と期待を寄せる。

東京都世田谷区で、アシスタントの女性と練習をする手妻師の藤山大樹さん(2018年1月10日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi

■驚く観客はかつての自分

「手妻を知ってもらわない限りは、後継者も現れない。できる範囲で、手妻の面白さを伝えたい」と藤山さんは目標を語る。その思いは、国内にとどまらない。米国、英国、インド、韓国や台湾など世界中を訪れ、時には英語でも公演を行う。

 舞台前にはかまの帯を締めるときが、一番気合の入る瞬間だ。「ひも一つで全てが留まっているから」と背筋を伸ばし、呼吸を整える。舞台に上がれば、観客の驚いた表情が心の支えになる。「それを見た瞬間、やりたかったことをやれていると分かる。生きがいを感じる」。観客の反応が、自分自身の原点を思い起こさせてくれるからだ。「マジックに触れ、人はこんなに人を楽しませることができるんだと思ったときの僕と同じ顔をしている」(c)AFPBB News/Hiromi Tanoue 

東京都中央区で、本番を前に控室で集中する手妻師の藤山大樹さん(2018年1月18日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi