【2月26日 AFP】4年前に行われたソチ冬季五輪で、ロシアのユリア・リプニツカヤ(Julia Lipnitskaia)さんはフィギュアスケート団体で母国に金メダルをもたらし、大会を席巻した選手の一人として観客を魅了した。当時15歳だったこの少女はその足元に世界がひれ伏し、同国のウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領から公の場で抱擁も受けたが、やがて地面が崩壊する事態に直面した。

【写真特集】フィギュアスケーターのビフォーアフター

 リプニツカヤさんは昨年9月、拒食症に関連した健康問題を理由に現役を引退。昨年1月にイスラエルのクリニックで治療を模索し、19歳という若さでスケートのキャリアを終えるという重大な決断を下した。平昌冬季五輪の大会期間中はロシアの自宅に戻り、スケート靴はほこりをかぶったままとなっている。

 リプニツカヤさんはロシアフィギュアスケート連盟(FSFR)とのインタビューの中で、自身の苦しい経験について率直に話しており、元々は内気な性格で突然の名声に対処することが難しかったという。

「子どもの頃からとても内向的な性格でした。初対面の人と会話することは大変な努力が必要だったのです。拒食症は21世紀特有の病気でよく知られています。残念ながら、すべての人がこの病気に対処できるわけではありません。スケートを引退する決断は本当につらかったです。しかし、母と相談して新しい人生をスタートすることに決めました」

 摂食障害は病気を患っているフィギュア選手がひた隠しにすることから、「スケート界が抱える知られたくない秘密」と呼ばれている。平昌五輪のフィギュアスケート女子シングルで15位だったカナダのガブリエル・デールマン(Gabrielle Daleman)は、自身が抱えていた問題を告白した際、大勢のスケーターからメッセージを受け取ったという。

 現在20歳のデールマンは「それがこのスポーツのせいなのか、自分に対する周囲の目なのかは分かりません。私は(学校で)いじめなどに遭ったり批判を受けたりして、自分の姿に満足していませんでした。周囲が望んでいる通りに振る舞おうとして、自分自身で満足することを忘れていたのです。それがここ数年で学んだことでした」と語った。

 デールマンは摂食障害が始まったのは学習障害によるいじめを受けた学校時代だったと明かし、「アシュリー・ケイン(Ashley Cain、米国)、グレイシー・ゴールド(Gracie Gold、米国)、エフゲニア・メドベデワ(Evgenia Medvedeva、ロシア)ら、同じスケーターからたくさんのメッセージをもらいました。大勢のスケーターが事実を打ち明けてくれてありがとうと言ってくれたのです。問題を告白した人はそれほど多くありませんから」と話した。

 そのうちの一人で通算2度の全米選手権(Prudential U.S. Figure Skating Championships)制覇を誇るゴールドは、摂食障害やうつ病、そして不安症を理由に五輪シーズンを休養した。2005年には米国のジェニファー・カーク(Jennifer Kirk)さんが摂食障害を患い、2006年トリノ冬季五輪の代表選考会を前にその前途有望なスケート人生に幕を閉じた。

 デールマンはまた、自分の経験を公表したことに加え、平昌五輪で2度目の五輪出場を果たしたことに大きな誇りを抱いており、「恥じていません。苦しい経験を乗り越えて前進していることを誇りに思っていますし、自分の仕事ができて本当に喜んでいます」と語った。

 スケートは何時間にも及ぶ脱水状態、繰り返される練習、高いジャンプ、高速スピンなど成長期の体にとって過酷なものとなっている。加えて美しさも要求されるスポーツであり、コスチュームは露出度が高いものや体の線にぴったりしたものが多く、スポットライトは一部の選手を輝かせる一方で、他の選手にとっては残酷なものになりかねない。

 統括団体である国際スケート連盟(ISU)に摂食障害の問題について問い合わせると、連盟のウェブサイトに掲載されている医療ガイドラインについて言及し、スケーターとコーチは健康、栄養、そして負傷に関する教育を受けることになっており、「アスリートの健康が脅かされているとの報告は、いかなるものでもISUのメディカル委員会によって深刻に受け止められている」としている。(c)AFP/Nick REEVES