■独裁者による国民監視

 政治に関わる部分では、自国民をスパイするために張り巡らされた監視ネットワークから集めた大量のデータを、独裁的な指導者や無節操な政治家らが最新技術を使ってふるいにかけることがすでに可能な状態だ。「独裁者は政権転覆を計画している者たちをいっそう敏速に把握し、居場所を特定し、彼らが行動を起こす前に投獄することが可能になるだろう」と報告書は述べている。

 また、安価でありながら真実味のあるフェイク(偽)動画を使った特定の対象へのプロパガンダは、「これまでに想像できなかった規模で」世論を操作する強力なツールとなりつつあるという。

■掃除ロボットが自動テロ

 ドローン(無人機)やロボットが普及しつつあることも迫りくる新たな危険だ。自動運転車を衝突させたり、ミサイルを運搬したり、重要インフラを脅して身代金を得ようとしたりと、本来の目的とは異なった使い方をされることもあり得る。

「個人的に特に懸念しているのは、犯罪者や国家組織の両方によって自律移動できるドローンがテロに使われたり、サイバー攻撃が自動化されたりする可能性だ」と話すのは、英オックスフォード大学(Oxford University)人類未来研究所(Future of Humanity Institute)の研究員で報告書の著者の1人、マイルス・ブランデージ(Miles Brundage)氏だ。

 報告書では実際に起こり得る出来事として、爆弾を仕掛けられたオフィス用掃除ロボットが他の同型のロボットにまぎれ、ドイツ財務省に侵入するシナリオが詳述されている。

 侵入したロボットは通常通り掃除をしたり、ごみ箱を片付けたりするが、隠された顔認識ソフトが標的の財務相を特定すると接近していく。このSF的なシナリオでは最後、仕掛けられた爆発装置は近接で爆破され、同相を殺害、周辺にいた職員を負傷させて終わる。

「これから5年、10年の未来がどうなる可能性があるかをこの報告書は想像している」「われわれはAIの悪用による危険性を日々はらんでいる世界に住んでおり、この問題に対する責任を負う必要がある」とオヘイガティ氏は言う。

 報告書の著者らは政策立案者や企業に対し、ハッキングされないロボット運用ソフトウエアの作成や、安全保障の観点から一部の研究に制限を課すこと、またAI開発を管理する法と規制の拡大の検討などを求めている。