【2月21日 AFP】血液だけを摂取して生きることに要する労力とそこから得られる見返りの大きさだけを考えると、吸血コウモリは先が見えない進化の袋小路に陥ってしまったようにも見える──。それは血液が細菌性やウイルス性の病気と結びついている意外に、栄養が非常に乏しい割に塩分が高すぎるといったマイナスの要素が多いためだ。

 しかし、19日に発表された研究論文によると、自然淘汰はこれらの困難を克服し、音もなく粘性を持つルビー色の「霊薬」を吸う生き方に完全に適した遺伝子的特徴と腸内生態系をコウモリの中に作り上げたのだという。

 有名な恐怖小説に登場する吸血鬼ドラキュラ(Dracula)があれほど長生きしたのは奇跡的な出来事だ。

 論文の主執筆者で、消化管に生息する微生物群「腸内微生物叢(そう)」を専門とするデンマーク・コペンハーゲン大学(University of Copenhagen)の遺伝子工学者、リサンドラ・セペダ・メンドーサ(Lisandra Zepeda Mendoza)氏は「日常の食物とするのに体内で多くの適応を必要とするという意味では、吸血コウモリは『究極の』食性を持っている」と話す。

 メンドーサ氏と約30人の科学者チームは、吸血コウモリのナミチスイコウモリ(学名:Desmodus rotundus)がこれらの変化をどのようにして成し遂げたかを解明するために、そのゲノム(全遺伝情報)と腸内微生物叢を解析した。

 その結果、ナミチスイコウモリのゲノムと腸内微生物叢は両方とも、果物、肉、昆虫などを好む他のコウモリ1200種では類を見ないほど特異であることを発見した。

 まずゲノムに関しては、大きさ(ゲノムサイズ)は一般的だが、「転移因子(トランスポゾン)」と呼ばれる、ゲノム上の位置を変えることが可能なDNA断片を2倍多く含んでいた。

 転移因子はゲノムの中の免疫系と代謝をつかさどる領域に集中していた。ナミチスイコウモリはこれらの機能も他の種に比べて大きく異なっている。血液に含まれる高濃度の鉄分や窒素性老廃物を吸収・処理できる点などはその一例だ。

 他方で消化管内には、抗ウイルス物質を産生し、防御的な役割を果たす細菌が驚くほど豊富に常在していた。このうちの数百種は、他の哺乳類で病気を引き起こす細菌だ。

 論文の共同執筆者、トム・ギルバート(Tom Gilbert)氏は、吸血コウモリがダニや蚊などのお腹いっぱい血を吸った昆虫を食べることから始めて、徐々に血液だけの食性に切り替えていった可能性があると推察している。

 ギルバート氏は、取材に応じた電子メールで「これの素晴らしい点は、血液食性に変化することで食物が非常に豊富になり、競争がほとんどなくなることだ」と説明し、「これは大きな進化的成功だった」と付け加えた。(c)AFP/Marlowe HOOD