【2月19日 AFP】少数民族ロマの一家の厳しい生活を描いた2013年の映画『鉄くず拾いの物語(An Episode in the Life of an Iron Picker)』に主演し、ベルリン国際映画祭(Berlin film festival)で最優秀男優賞を受賞したボスニア・ヘルツェゴビナのナジフ・ムイチ(Nazif Mujic)さんが死去した。48歳。ムイチさんは映画での成功にもかかわらず、極度の貧困生活に苦しめられた。

 家族によるとムイチさんはここ数か月、病気を患っていたといい、ボスニアのスバトバツ(Svatovac)村で亡くなった。

『鉄くず拾いの物語』はムイチさんが妻の流産後の医療費のために苦闘する実話に基づいた作品。ムイチさんは自分自身の役で出演し、ボスニア帰国の際には英雄として迎えられた。同年のベルリン映画祭では「銀熊賞(Silver Bear)」の一つである最優秀男優賞のほか、審査員大賞も受賞した。

 しかし、この成功もムイチさんに富は全くもたらさず、ムイチさんは以前の1日当たり数ユーロの鉄くず拾いの仕事に戻るしかなかった。

 家族の必需品を購入する金銭が尽きたため、インターネットで「銀熊賞」のトロフィーを4000ユーロ(約53万円)で手放すことも余儀なくされた。今年1月、トロフィーを売って得たお金の一部でベルリン行きのバスの切符を購入してドイツを訪問。現地でベルリン映画祭の主催者らに家族の窮状を訴える意向だった。

 だがムイチさんは、家族と共にドイツに難民申請をしていた当時にさかのぼる罰金の支払い義務があると言われ、映画祭の開幕前に帰国を余儀なくされた。

 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(Human Rights Watch)は2016年、ロマは「雇用、教育、および政治参加の面で広範な差別」に直面しているとし、ボスニアで「最も弱い立場に置かれている集団」と位置づけている。(c)AFP/Rusmir SMAJILHODZIC