【2月9日 AFP】「これはアフリカのモナリザだと思う」。英文学賞ブッカー賞(Man Booker Prize)の受賞作家であるベン・オクリ(Ben Okri)氏は、最近英ロンドンのフラットで見つかったナイジェリア王女の肖像画を見つめながら語った。

 ナイジェリアの美術作家ベン・エンウォンウ(Ben Enwonwu)が1974年に描いたこの肖像画は、翌75年以来長らく行方不明のままで、エンウォンウの祖国では神話的存在となっていた。描かれている人物は、ヨルバ(Yoruba)人の王女「ツツ(Tutu)」ことアデツツ・アデミルイ(Adetutu Ademiluyi)だ。思いがけず発見されたこの絵が今月、競売に掛けられることになった。

 オクリ氏はAFPに対し「40年間にわたって伝説となっていた絵だ。誰もが『ツツはどこ?』と言って、ツツについて話題にし続けてきた」と語った。

■ナイジェリアの希望と再生の象徴

 世界的に有名なナイジェリアの文化人であるオクリ氏は、2月28日にこの肖像の競売が行われる英競売大手ボナムス(Bonhams)でこの絵を眺めた。「彼(エンウォンウ)はこの少女を描いただけでなく、伝統をまるごと描いたのだ。この絵はナイジェリアの希望と再生の象徴であり、不死鳥の飛翔(ひしょう)の象徴でもある」

 ボナムスのアフリカ現代美術担当ディレクター、ジャイルズ・ペッピアット(Giles Peppiatt)氏は、ロンドン北部のある家族から連絡を受けて、この肖像画を鑑定した。「足を踏み入れたフラットの壁に掛かっていたこの絵は見事だった。一目で本物だと思ったが、オーナーにはその場でうっかりしたことは言えなかった」。鑑定が終わり、行方不明になっていた名画だと知ると、その家族は非常に驚いていたという。

 1994年に死去したエンウォンウは、ナイジェリア芸術のモダニズムの父とみなされている。彼は「ツツ」の肖像を3枚描いたが、いずれも最近発見されるまで所在不明となっていた。1967~1970年のビアフラ戦争における部族同士の衝突の後、これらの作品は平和の象徴となった。

 ボナムスのアフリカ美術専門家、エリザ・ソーヤー(Eliza Sawyer)氏は「ツツはヨルバ人でエンウォンウはイボ(Ibo)人だ。つまり彼らは異なる部族に属していた」「この絵は和解の重要な象徴だ」と語った。

 2月28日にロンドンとナイジェリア・ラゴス(Lagos)で同時に競売に掛けられるこの肖像の落札予想価格は約25万ポンド(約3800万円)だが、オクリ氏はこの絵には金銭以上の価値があると主張している。映像は、7日撮影。(c)AFP