【2月27日 AFP】私が初めて砂漠を目にしたのは2006年。仕事のためにアラブ首長国連邦(UAE)に移って来た年だ。祖国イラクには2本の大河が流れ、緑がある。砂漠地帯もあるが、私が生まれ育った場所にはない。そのため、自分にとって目新しいこの風景に私は魅了された。その気持ちは今も変わらない。

 砂漠は何も動かず、変化がなく単調で、「写真映えしない」場所だというのは誤解だ。私は砂漠のとりこになり、砂漠の写真を撮れば撮るほど好きになっている。

(c)AFP / Karim Sahib

 私はどんな取材対象に対しても、常に異なるアングルを見つけるようにしている。ドバイはタワービルや高層ビルばかりの街だ。ドバイに来たとき、私はあえて都会を離れ、砂漠へ向かった。

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイに並ぶタワーの数々(撮影日不明)。(c)AFP / Karim Sahib
砂漠の「タワー」(撮影日不明)。(c)AFP / Karim Sahib

 UAEは都市部の開発と砂漠の保存を独自の方法で非常にうまく両立させ、砂漠は手付かずのまま残されている。その一方で、携帯電話は全国ほぼどこでも使用できるため、仕事も(生活も)非常にしやすい。

 私は砂漠に行くのが大好きだ。都市での日常の仕事から解放され、騒音もなければ、人混みもない。よく行くのはリワ(Liwa)砂漠で、ドバイから約650キロ、アブダビからは西へ車で3時間ほどの距離にある。そこではよく土着の民族の人々と3~4日間、キャンプで暮らす。ここで過ごして彼らと友情を築かなければ、良い写真を撮ることはできない。いつも一緒に過ごす人々は今では私を家族のように扱ってくれる。

 リワ砂漠を初めて訪れたのは、2013年。このときは最後まで運転できず、途中から歩かなければならなかった。たどり着いた先では、彼らが祈りをささげている最中だった。私もカメラを傍らに置き、一緒に祈った。

アラブ首長国連邦(UAE)のリワ砂漠のテント内で祈りをささげるUAEの人々(2013年12月撮影)。(c)AFP / Karim Sahib

 私たちはこうして出会い、初めて心を通じ合わせた。彼らはカメラに興味を示し、その日の午後は語り合いながら過ごした。近くにホテルはあるかと聞くのはためらわれ、どうやって切り出そうか考えていると夕食を出され、どこにも行かなくていいと言われた。私は客人、必要なだけ一緒にいればいいと言うのだ。私はその言葉に従い、彼らのテントの一つに泊まった。

砂漠でのお茶会(撮影日不明)。(c)AFP / Karim Sahib

 私が初めてリワ砂漠を初めて訪れた時点で、ここには6年ほど雨が降っていなかった。ところが翌朝5時、大雨が降り出した。私はカメラを取り出し、ぬれた砂丘をラクダを引いて歩く男性2人のスナップ写真を撮った。

アラブ首長国連邦(UAE)のリワ砂漠でめったにない暴風雨が吹き荒れる中、ラクダを連れて歩く人々(2013年11月撮影)。(c)AFP / Karim Sahib

 午前中にテントに戻ると、とても温かく迎えられた。私が幸運を呼んできたから雨が降ったのだ、と彼らは口々に言った。最近では1年も雨が降らないと、「カリム、どこにいるんだい? こっちで雨水を使ってみようよ」とからかわれる始末だ。

 この砂漠の民に属する人々の多くはアブダビに住んでいるが、自分のルーツとは深いつながりを持ち、砂漠に太陽光パネルと貯水漕付きのラクダの飼育小屋を持っている。

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 初訪問以来、私はしょっちゅうリワ砂漠に車で出掛けるようになった。

 彼らの民族は手放しでもてなしてくれる。

 客人なら誰でもたいてい歓迎するが、私のことを今ではよく知ってくれているため、特別な待遇をしてくれているのではないかと思う。

 ここにいると自分が本当のアラブ人のように思え、自分のアラブ系のルーツにつながっている気がする。

 人をもてなし、大地と一体だという考え。

 イスラム教のコーランや聖書、ユダヤ教のトーラーといった聖典はどれも、人は大地から生まれ大地へ帰って行くと言っている。

 大地といえば真っ先に思い浮かぶのは砂漠だ。

 ここに存在しているのは、自分と星と大地だけ。

 自分がどこから来て、どこへ向かっているのか、最後の目的地を思い出させてくれる。

 自分を謙虚にさせてくれる。

 出掛けるたびに私は砂漠の文化についていろいろなことを学んでいる。

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 何年もたつうちに、最高の写真を撮るにはどこへ、いつごろ行けばいいのか分かるようになってきた。いつもは大体、朝に撮影し、さらに夕暮れ時にも撮影する。日中は暑過ぎる上に、光がフラットで良くないからだ。

 午前10時以降はきつい時間帯になってくるので、日中は撮影はしない。彼らのテントの中にはいつでも家族や友人のためにお茶やコーヒー、ナツメヤシの実などが飲み水と一緒に用意されている。暑い時間帯の休憩中は電子メールをチェックしたり、彼らの家族とくつろいだりして過ごす。

 私に言わせれば、砂漠には砂漠のタワーがある。砂丘だ。そしてそのタワーはどれ一つとして同じには見えない。砂丘は光で変わり、季節で変わる。朝は日差しが柔らかく、砂はオレンジ色をしている。正午になると、まばゆいほど白に近い黄色に輝き、午後には燃えるようなオレンジ色になる。温かく、砂に沈む夕日のようだ。

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 今のところドローン(小型無人機)を使った撮影はしていない。ドローンを操作するには特別なライセンスが必要で取得するのが難しいからだ。そのため、自分なりの「空中写真」を撮るために砂丘に上っている。

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 ここ一帯で最大の砂漠と考えられているリワは、100キロほどの長さの三日月の形をしていて、砂丘が折り重なっている。砂丘はいくら眺めていても新しい姿を見せるので楽しい。特に何の足跡もなく、鳥の鳴き声だけが聞こえるときは自然のままの姿を見せる。そして、その上を光が照らす様子は毎回、絵のレッスンを見ている気になる。

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 もう一つ、私が砂漠に魅了される理由は動物たちだ。

オマーンのアラビアオリックス保護区のアラビアオリックス(2017年3月撮影)。(c)AFP / Karim Sahib
オマーンのアラビアオリックス保護区にいるアラビアオリックスたち(2016年3月撮影)。(c)AFP / Karim Sahib

 アラブ首長国連邦にはタカ狩りの伝統がある。タカを使って小さな鳥を捕るのだ。彼らのタカとラクダの扱いは見事だ。タカを連れて車を運転するときは、助手席をタカのために空け、エアコンはタカにとって適温となるように調整する。

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 ここで仕事をしている間に都市部に住んでいる砂漠の民ともたくさん出会った。都会は彼らにとって家を構える場所であり、働く場所でもある。だが、彼らが自分の居場所だと考えているのは砂漠だ。そして今では私もそれに共感できる。

このコラムはアラブ首長国連邦(UAE)ドバイを拠点とするフォトグラファー、カリム・サーヒブ(Karim Sahib)が、同じくドバイのナターチャ・ヤズベック(Natacha Yazbeck)記者、AFPパリ本社のヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)記者と共同で執筆し、2018年1月25日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。

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