■幻覚

 レボルさんは救助隊がその午後遅くに到着すると思っていたが、現れなかったため、クレバスの下でもう一夜過ごすことを余儀なくされた。

 ただ、「脱け出せると思っていた。穴の中にいて凍えるほど寒かったけれど、絶望的な状況ではなかった。私よりずっと衰弱していたトマシュのことを心配していた」と言う。

 そこで彼女は高所で起こる幻覚を見始めた。皆が温かいお茶を持ってきてくれるのだが、そのお礼に靴を差し出さなければならなかった。裸足のまま5時間を過ごしたため、足が凍傷にかかった。

 6800メートルのところでレボルさんは疲労困憊(こんぱい)し、体力を温存し体温を保つために動かずにじっとしていることにした。

 ヘリコプターのプロペラの音が頭上に聞こえたとき、彼女の希望が高まった。ただ風が強度を増し、救助隊は着陸できなかった。

 外で3回目の夜を過ごさなければならないと知った時、レボルさんは「生きられるかどうか疑い始めた」と語った。また、ポーランド人の登山隊が送信したとされる、迎えに行くというメッセージは受け取っていなかったという。

 ついに彼女はぬれた手袋と凍りついた足で最後の下山を始めた。そして何とか午前3時頃、テント小屋のひとつにたどり着いた。

「そして二つのヘッドランプが近づいてくるのを見たのです。そこで叫び始めました。そして自分に『オーケー、もう大丈夫』と言い聞かせました」

「感無量でした」

 レボルさんはその後、パキスタンのイスラマバードに飛行機で移動し、その後スイス経由でフランスに帰国した。

 また登山をするかとの問いにレボルさんは「すると思います」と答えた。「私には必要なんです」 (c)AFP/Sophie LAUTIER