■停止ショック

 検証の結果、地球の平均表面温度が約1度下がり、19世紀半ば以降の温度上昇分が実質的に帳消しとなることが分かった。

 だが、SRMによる太陽光線の減光が突然停止し、地球工学が配置されていなかった場合に比べて10倍速いペースで気温が上昇する「停止ショック」シナリオが発生すると、野生生物はどのように対処するだろうかと、研究チームは問いかけている。

 研究チームは、動植物が生息に適した気候内にとどまるために、どのくらい迅速に移動しなければならないと考えられるかを予測した。

 その結果、多くの動物、特に両生類と陸生哺乳類は十分に迅速な移動が不可能と考えられることが明らかになった。植物は動物に比べてさらに移動能力が劣る。

 事態はさらに悪化する。多くの場合、野生生物が生息に適した気温と降雨量の地域を見つけるのに、移動すべき方向が双方で違ってくることが考えられるからだ。

 だが、それだからといって太陽光地球工学を検討のテーブルから外すべきというわけではないと、外部の研究者らは注意を促している。

 論文の執筆者らも同じ見方を示している。「温室効果ガス排出量のこれまでの軌跡を考えると、提案されている気候工学の潜在的な恩恵とコストについて調べないのは無責任と思われる」と、論文執筆者らは記している。

 米ハーバード大学(Harvard University)のデービッド・キース(David Keith)教授と同大の共同研究者のフランク・コイチュ(Frank Keutsch)氏は今年秋、米アリゾナ州の砂漠で予備的な大気圏実験を実施する予定だ。だが、実験結果が得られるのは数年先のことだと、キース教授らは説明している。

 米パシフィックノースウェスト国立研究所(Pacific Northwest National Laboratory)の気象学者で、地球工学の専門家のベン・クラビッツ(Ben Kravitz)氏は「SRMなしでは、気温上昇幅を1.5~2度に抑える温暖化対策目標を達成するのは極めて難しい」として「不可能ではないが、非常に困難だ」と述べている。(c)AFP/Marlowe HOOD