【1月22日 AFP】乗馬やアーチェリーは最高に調子が良いときでも難しいものだが、イスラム教徒の女性が着る全身を覆う衣装「ニカブ」を着用しているときはなおさら難しい。

 しかしインドネシア女性のグループ「ニカブ隊(Niqab Squad)」がひるむことはない。ニカブは宗教の自由と女性の権利をめぐる白熱した世界的論争の焦点になってきた。ニカブ隊はニカブへの偏見と闘うべく結成されたグループだ。

 メンバーが一緒にコーランを朗唱するほか、最近の集まりでは乗馬やアーチェリーなどのイスラム教の預言者ムハンマド(Prophet Mohammed)が推奨した活動をしている。

 メンバーの一人、ジャナリアさん(19)は乗馬未経験者だったが、今では黒いベールをなびかせながら馬を操っている。他の初心者のメンバーは矢尻の部分に吸盤が付いたアーチェリーに挑戦している。

 ジャナリアさんは「それほど難しくはない」と言う。首都ジャカルタの灼熱(しゃくねつ)の太陽の下、多くのインドネシア人と同じように名字がないジャナリアさんはクスッと笑いながら、コース内で馬を操る。「走るのも大丈夫。慣れれば快適よ。一番大事なことはニカブを足かせと思わないこと。我慢しなきゃ」

 わずかに開いている目の部分を除いて全身を覆うニカブは非常に保守的なサウジアラビアなどの湾岸諸国では一般的だがインドネシアでは珍しく、国の規則で学校の制服に採用してはならないことになっている。最近も教室でニカブを着用していた女子生徒らの写真がインターネットで拡散したジャワ島のイスラム教私立高校が地元当局から処分を受けた。

 2016年にヒジャブ(髪と耳、首を覆うが顔は見えるヘッドスカーフ)をやめてニカブを着るようになった30代半ばのインダダリ・ミンドラヤンティ(Indadari Mindrayanti)さんは、差別を受けている女性たちをネットで探しだして2017年にニカブ隊を発足させた。

■『うわ忍者だ』『なにこれ怖い』

 2度の離婚歴─そのうち1度の相手は連続メロドラマで知られたインドネシアの有名人─があるミンドラヤンティさんは、ニカブ着用は信仰を深める手段だと考えていた。しかし家族の理解は得られず、街で「気味悪そうに見られる」ことも多いという。

 ジャカルタのモスクでAFPの取材に応じたミンドラヤンティさんは「話しかけられることはまずありません。私のことを怖がっているようです」と語った。「街を歩いていると『うわ忍者だ』『なにこれ怖い』といった不愉快なことを言われることもあります」

 ニカブ隊はインドネシア、マレーシア、台湾、南アフリカで計3000人の女性が参加するまでに急成長した。その中には、過激派と決めつけられたり「どうしてテロリストのような格好をしているのか」と頻繁に尋ねられたりする人もいるという。

 ミンドラヤンティさんが2017年に皮膚の治療を受けるためフランスに行った時も同じような視線を感じた。フランスは顔全体を覆うベールの公共の場で着用することを欧州で初めて禁止した国だ。欧米ではニカブや全身を覆う上に目元も隠すブルカは信教の自由の重要部分なのかそれとも女性の人権を損なうものなのかという激しいイデオロギー論争が繰り広げられている。

 ニカブ隊の乗馬とアーチェリーのイベントの企画に携わった人物は「いろいろな違いを乗り越えるのが私たちの目的です。イスラム教の中にあるものも含めて」と語った。「イスラム教内部にもいろいろな見方があります…預言者はわれわれ全員が結束することを求めておられます」

 一方で、ニカブをサウジアラビアなどの厳しいイスラム教の国からインドネシアに輸出されて勢力を強めつつある宗教的保守主義のシンボルとして捉えて批判する声もある。昨年5月には宗教冒涜(ぼうとく)罪に問われたキリスト教徒のジャカルタ特別州知事が禁錮2年の判決を受け、インドネシアの宗教的寛容性について懸念が深まった。

 しかし、ニカブ隊を創設したミンドラヤンティさんは自分の装いを見てたじろく人たちにも優しい声で親しく語りかけ、あくまで善良な目的でやっていることを理解してもらえるようにしたいと言う。

 ミンドラヤンティさんは「ニカブを着ているからといって他人と交流できないということなどありません。たとえ相手がイスラム教徒でないとしても」と話す。「イスラム教徒でない人…イスラム教を理解していない人、メディアを通じてしかイスラム教を知らない人。私たちはこうした人に対するイスラム教の良いアンバサダーになれると思っています」

 映像は2017年11月13日撮影。(c)AFP