【1月14日 AFP】韓国ソウル北郊の南楊州(Namyangju)市にある食肉用の養犬場で、ラブラドルからビーグル、雑種犬までさまざまな犬がさびたケージから次々と出されていく──。この養犬場の経営者キム・ヨンファンさん(56)が動物愛護団体との取引に応じたため、犬たちは人の食卓に上る運命から逃れることができたのだ。

 最近は食用犬肉の需要が落ち込んでおり、キムさんは補償金と引き換えに養犬を欧米の里親に譲るという米国拠点の動物愛護団体「ヒューメイン・ソサエティ・インターナショナル(HSI)」からの申し出に応じることを決めた。

 この3年間にHSIの申し出に応じた養犬業者はキムさんで10人目だ。補償金の額は非公開だが、譲渡の費用を含めて1件あたり数十万ドルとみられる。

「養犬業に未来はない。手遅れになる前にやめたかった」と、170匹の犬を飼育していたキムさんは語る。

「この数年は犬肉の価格も急落していた」とキムさん。「やりくりにも苦労していたうえに四六時中、動物愛護団体からの嫌がらせもあった。面倒なことだらけだ」

 国外の多くの動物愛護団体を含め、犬食禁止を求める活動家らの声に対する韓国人の反応は割れている。欧米の偽善だと非難する人がいる一方、犬をペットと認識している若い世代には犬食に嫌悪感を持つ人も少なくない。

 他方で「私は犬は食べない。でも、愛らしくて人懐こい動物だけが生きる権利があるなどと欧米人から説教されるのにはうんざりする」との意見もインターネット上ではみられる。

■「子羊やウサギと同じ」

 人口5000万人の韓国でペットを飼っているのは約5人に1人と言われている。飼われているペットの多くはおそらく犬や猫だろう。しかし、その他大勢にとっては犬も「子羊やウサギと変わりない」のだ。

 2017年に韓国で実施された世論調査によれば、犬を食べないと答えたのは70%だが、犬食を廃止すべきとの回答は40%だった。

 一方、清州(Cheongju)にある忠清大学(Chung Cheong University)の安龍根(Ahn Yong-Geun)教授(食品栄養学)は犬食廃止に真っ向から異論を唱える。「(活動家が犬食廃止を推進するのは)豚や牛を救うプロジェクトでは支援者が盛り上がってくれないからだ。そうした動物だって犬と同じくらい苦しむだろうし、同じくらい愛情を示すこともできる」

 HSIの国際メディア担当、ウェンディ・ヒギンズ(Wendy Higgins)氏は、同団体の目的は「人々の食生活から肉食を減らすこと」だと述べる一方で、牛や豚の救済活動は広がっていないことを認めた。それでも犬食の残酷さを訴えていけば、いずれ人々の関心は犬以外の畜産動物にも向けられるようになると期待を込めて語った。

 養犬をやめたキムさんだが、HSIとの取り決めによりその他の畜産動物の飼育についても禁じられた。「社会の環境が変わった」とキムさんは言う。「今じゃ、犬を食べれば犯罪者扱いだ」

 映像は、2017年11月28日撮影。 (c)AFP