【1月24日 AFP】冬の日、新鮮な空気を吸いたくなると、私は自分の暮らすマケドニアの首都スコピエの街を出て、周りの丘陵に上る。昔は丘の上へ上っても排ガスの雲しか見えなかったが、今は高層ビルが2、3、背を伸ばしていて、その下に隠れた街があることを感じさせる。

 子どもの頃は冬になると、スコピエに厚い霧が降りてきた。時には厚すぎて、文字通り1メートル先が見えないこともあった。それでも車を運転しなければならないときには、誰かに前を歩いてもらって、どこが道かを教えてもらわなければならなかった。

マケドニアの首都スコピエ(2017年12月24日撮影)。(c)AFP/Robert Atanasovski

 スコピエは北と南を山脈に囲まれた渓谷にあり、いわゆる「構造盆地」を形成している。ボウルの中にいると思えばいい。いったん霧が降りて来ると、底に沈み、何日間もそこから動かない。これは大気汚染にも当てはまる。

 若いときはそれほど大気汚染について話したり、心配したりした覚えがない。けれど今や世界保健機関(WHO)から、有害な微粒子の濃度が欧州で最も高い都市ワースト10に入っているといわれている。

(c)AFP/Robert Atanasovski

 大気汚染はこの10年の間に、この街で最も話題とされる問題となってしまった。誰もが携帯電話に、マケドニアの都市の大気汚染レベルを表示するアプリを入れている。

 スモッグがこの街に降りて来るのは、特にみんなが暖房を使う冬だ。大気汚染のうち半分は一般家庭の暖房、つまり暖炉のまきや炭、灯油が原因だとさまざまな研究で指摘されている。断熱がちゃんとできていないビルが多いことも、問題を大きくしている。

(c)AFP/Robert Atanasovski

 政府はこの問題を何年も放置していたが、最近ようやく目を向け始めた。暖房の大半をガスに切り替える計画も出ている。冬の間は車の使用が規制されることもお決まりとなっている。

 空気が悪すぎるのは目で見て分かるだけではなく、肌でも感じる。昔は冷え込みが続いても3、4日だったのが、今では3週間かそれ以上長く続くこともある。息を吸うと喉が焼けたように感じることさえある。マスクはもはや日常着の一部だ。バイクに乗る人で冬にマスクを着けていない人はまったく見つけられないだろう。私はよく同僚と、マスクは今や必須のファッションアイテムだと冗談を言っている。昔はスカーフ、今はマスクだ。

マケドニアの首都スコピエ(2017年12月14日撮影)。(c)AFP/Robert Atanasovski

 幼稚園や学校では今、空気清浄機を買っているし、そうする家庭も増え始めた。昔は新鮮な空気を吸いたくなったら屋外へ行っていたが、今日のスコピエでは反対に屋内へ行かなければならない。

 それでも私は今でも丘に上る。ちょっとばかり新鮮な空気が吸えるし、高層ビルが顔を出しているいい写真が撮れる。そのスモッグの下に隠れた街があることを感じさせる──。

このコラムはマケドニアの首都スコピエを拠点とするAFPの写真記者、ロベルト・アタナソフスキ(Robert Atanasovski)が、AFPパリ本社のヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)記者と共同で執筆し、2018年1月3日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。

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