■『うわ忍者だ』『なにこれ怖い』

 2度の離婚歴─そのうち1度の相手は連続メロドラマで知られたインドネシアの有名人─があるミンドラヤンティさんは、ニカブ着用は信仰を深める手段だと考えていた。しかし家族の理解は得られず、街で「気味悪そうに見られる」ことも多いという。

 ジャカルタのモスクでAFPの取材に応じたミンドラヤンティさんは「話しかけられることはまずありません。私のことを怖がっているようです」と語った。「街を歩いていると『うわ忍者だ』『なにこれ怖い』といった不愉快なことを言われることもあります」

 ニカブ隊はインドネシア、マレーシア、台湾、南アフリカで計3000人の女性が参加するまでに急成長した。その中には、過激派と決めつけられたり「どうしてテロリストのような格好をしているのか」と頻繁に尋ねられたりする人もいるという。

 ミンドラヤンティさんが2017年に皮膚の治療を受けるためフランスに行った時も同じような視線を感じた。フランスは顔全体を覆うベールの公共の場で着用することを欧州で初めて禁止した国だ。欧米ではニカブや全身を覆う上に目元も隠すブルカは信教の自由の重要部分なのかそれとも女性の人権を損なうものなのかという激しいイデオロギー論争が繰り広げられている。

 ニカブ隊の乗馬とアーチェリーのイベントの企画に携わった人物は「いろいろな違いを乗り越えるのが私たちの目的です。イスラム教の中にあるものも含めて」と語った。「イスラム教内部にもいろいろな見方があります…預言者はわれわれ全員が結束することを求めておられます」

 一方で、ニカブをサウジアラビアなどの厳しいイスラム教の国からインドネシアに輸出されて勢力を強めつつある宗教的保守主義のシンボルとして捉えて批判する声もある。昨年5月には宗教冒涜(ぼうとく)罪に問われたキリスト教徒のジャカルタ特別州知事が禁錮2年の判決を受け、インドネシアの宗教的寛容性について懸念が深まった。

 しかし、ニカブ隊を創設したミンドラヤンティさんは自分の装いを見てたじろく人たちにも優しい声で親しく語りかけ、あくまで善良な目的でやっていることを理解してもらえるようにしたいと言う。

 ミンドラヤンティさんは「ニカブを着ているからといって他人と交流できないということなどありません。たとえ相手がイスラム教徒でないとしても」と話す。「イスラム教徒でない人…イスラム教を理解していない人、メディアを通じてしかイスラム教を知らない人。私たちはこうした人に対するイスラム教の良いアンバサダーになれると思っています」 (c)AFP/Kiki Siregar