■政府に代わって立ち上がる

 伐採していたのは2人の若い男で、目の前に現われた警備隊員たちと同様、貧しい暮らしぶりをうかがわせるぼろぼろの服を着ていた。驚いた様子で、ただうろたえ、おびえて立っていた。警備隊は武器を振りかざすようなことは一切しなかった。

 タタと部下たちは数秒のうちに若者たちから山刀を奪い、辺りにライフルや拳銃が隠されていないかどうか確認し、チェーンソーを没収した。

 タタは若者たちに尋問を始めた。命令形だったが脅す口調ではなく、よく訓練された警官か兵士のようだった。「木の伐採許可は持っているのか? チェーンソーの登録は?」。警備隊に肩を抑えつけられ、切り株にうずくまるようにしていた若者たちは素直に「ない」と答えた。

「分かった。われわれはパラワンNGOネットワーク・インコーポレーテッド(Palawan NGO Network Inc.)、PNNIだ」。タタが言った。「この辺りの山で、違法伐採がはびこっているという報告を受けて来た」

 警備隊は若者らにチェーンソーを押収したことを記録した預かり証を渡すと、小走りで森の中へ戻って行った。たった数分の出来事だった。

 昔、腐敗した軍高官の私的な民兵組織を率いていたタタは、約20年前、環境保護活動に身を転じた。百戦錬磨の半生を通じて精神的に強くなったつもりだ。だが、大きなアピトンの切り株を後にして短い昼食を取っている間にタタは感情を見せた。とにかく絶望的に感じるのは、民間の環境保護活動家への転身を決意させた政府の腐敗だ。「本来ならばこれは政府の仕事だ。だが彼らは何もしない。われわれがやらなければ誰が止めることができるのか?」