■「日本人の心」

 なぜ日本でビスポークの文化が台頭し始めたのだろうか──。流行の発信地である東京・原宿の専門学校「ヒコ・みづのジュエリーカレッジ」で靴づくりの細かな技術を教える山口麻利(Mari Yamaguchi)さんは、手作りの靴がその繊細な感覚で日本人の心に語りかけるからだと話す。

 この学校を訪れてみると、数十人の若い学生たちが、作業台に前かがみになりがら靴の製造過程で必要となるそれぞれの細かい作業工程に真剣に取り組んでいた。

 山口さんによると、足はとても特殊でそれぞれに違いがあり、それぞれの革にも違いがあるという。そして、オーダーメードの靴をつくる際には、この2つの不完全かつ不思議な要素を組み合わせ、完璧に近づけることが課題となることを説明した。

 靴づくりに特化したブログの筆者であるスウェーデン人のジェスパー・インゲバルソン(Jesper Ingevaldsson)さんは、日本人が海外へ渡って技術を身につけ、帰国後にそれを発展させた事例はビスポークが初めてではないと語る。

「これまで他の分野で成し遂げたことを靴でも実現させている。デニムがいい例だ。デニムに関する知識を西洋から学び、日本でそれを完成させ、進化させた」

 こうした技術に関して日本の評判は高く、今では欧米から実習生たちが訪れるほどだ。