【12月25日 AFP】その大きな館(シャトー)は廃虚となっていて、ほとんど近づくことができない。だからこそ、想像力がかきたてられる。私は是が非でも、このシャトーの中をじっくり見てみたいと思った。

 フランス西部、トゥール(Tours)の街からそう遠くないレトロワムーティエ(Les Trois Moutiers)の近郊。廃虚となったシャトーは周りをほとんどぐるりと水に囲まれて立っている。

 私は「アーベックス(Urbex)」と呼ばれるサイトの一つを見ていてこのシャトーを見つけた。「Urbex」とは通常、「アーバン・エクスプローリング」(Urban Exploring、都市探索)を意味するが、対象は街だけに限らない。遺跡も建物も紹介されていて、それらは大抵、廃虚だ。田舎ならば古い修道院や工場、シャトーもある。これが趣味、というほどではないが、私はたまにこうした場所を探索するのが好きだ。

(c)AFP/Guillaume Souvant

 このシャトーへ行くのは特に難しい。同じ敷地の別の建物に所有者の兄弟が住んでいて、朽ち果てつつあるこのシャトーを猛然と守っているのだそうだ。

 それを読んで、中を見るのは無理だと最初からあきらめた。すると次に、このシャトーのためにクラウドファンディングが進行中だという話を読んだ。廃虚となったシャトーを救うためのクラウドファンディング──いい記事になるなと思ったので編集部へ案を投げると、即答でOKが出た。準備する時間がもうちょっとあればと思ったが2、3日で、記事の用意ができたので写真が要ると言われた。

(c)AFP/Guillaume Souvant

 クラウドファンディングの関係者に依頼して誰かに同行してもらおうと思ったが、誰も都合がつかなかったので1人で行った。私は慎重に車を止め、シャトーへ近づいて行った。事前にグーグルアース(Google Earth)でつぶさに調べておいたのだが、グーグルアースではシャトーの周りの敷地を囲む巨大なフェンスは見えなかった。

 仕方がないのでドローンを使って写真を撮影し、パリへ送信したが、デスクが即、電話をかけてきて、空撮ではなく地上から撮った写真も欲しいと言う。そこで私はフェンスがあること、それから凶暴な男がここを見張っているらしいといううわさを伝えて、やってはみるが結果は約束できないと答えた。

(c)AFP/Guillaume Souvant

 フェンスに沿って歩いていくと生け垣があった。何とか生け垣を通り抜けると空地に出た。だが、そこから先へは3歩と前に進めなかった。目の前に老人が立っていたのだ。

(c)AFP/Guillaume Souvant

 やや大声でぶっきらぼうなやりとりを交わすと、互いに何者であるか了解した。男性はこの廃虚を復元するには膨大な費用がかかるといって、クラウドファンディングの動きには極めて懐疑的だった。だが、私が写真を撮ることは承諾してくれ、案内までしてくれた。

(c)AFP/Guillaume Souvant

 実際にシャトーへ着いてみると、男性の懐疑心が理解できた。シャトー全体は基本的に「殻」なのだ。壁はあるが中にはほとんど何も残っておらず、ただかつて人間が住んでいた空間を植物がのびのびと占拠していた。もちろん、この方が想像力はもっと刺激される。つるに覆われた空間を見て、この壁の中でかつて息づいていた人々の生を思い浮かべた。

(c)AFP/Guillaume Souvant

このコラムはギヨーム・スバン(Guillaume Souvant)記者が執筆し、2017年11月16日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。