【12月17日 AFP】コンゴ民主共和国のゴマ(Goma)に暮らす30代シングルマザーのバレリーさんは、子ども用の青いショートパンツと小さな白いシャツをプラスチック製の袋から取り出して見せた──。これは8歳の息子の学校制服で、登校中に誘拐された日に着ていたものだ。シャツには血の跡が付いていた。

 同国東部に位置する北キブ(North Kivu)州の州都ゴマの治安状況は悪い。最近では、子どもの誘拐や拷問が急増しており、中には殺害されてしまう子どももいる。

 バレリーさんによると、息子のナタナエル君(仮名)を誘拐したグループは、米ドルで4桁の身代金を要求してきたという。家族はバレリーさんの親が用意した大きな一軒家に住んではいるものの、普段は安定した収入がある訳でもなく、犯人グループからの要求に応えることは不可能だった。

「あれは月曜日だった」とバレリーさんは悪夢が始まった日のことを振り返った。ほぼすべてのことを鮮明に覚えているバレリーさんだが、息子が誘拐されたのが7月だったのか、それとも8月だったのか、そのことだけは記憶があいまいなのだという。

 誘拐犯から連絡があったのは火曜日。この時の電話で「5000ドル(約56万円)払え。さもなければ、自宅の玄関前にお前の息子の死体を置いてやる」と脅迫されたという。

 バレリーさんは、水曜日までに何とか20ドル(約2200円)をかき集め、アフリカで広く利用されている携帯電話送金サービス「エアテル・マネー(Airtel Money)」で犯人グループ宛てに送金した。

 その後、再び犯人グループから連絡があった。受話器の向こうからは「ママ、殺されちゃうよ…」と叫ぶ息子の声が聞こえたという。

 そして日曜日、ナタナエル君は解放された。ただ、片方の耳たぶを大きく切られ、両腕に複数の刺し傷を負った状態だった。そして、拘束中に別の子どもが目の前で殺されたことを母親に話した。